順位戦 2002/01/23(水)
藤井猛九段VS佐藤康光九段
急戦藤井システム破りから無双銀
漆黒の海
マシュダ談 2002.2.2. 11:50UP
「これに負けると藤井先生、A級陥落の危険があります」
「危険は多い方が楽しー。最終日で泣き笑いすりゃえーの」
「2/84歩に3/16歩です」
「ここで飛車先を突くのが最強手」
「4/34歩でした。6/54歩に7/15歩です」
「この局面で先入観があれば必ず42玉とするはず」
「8/42玉です。これが先入観と?」
「あの15歩は一筋に後手角が覗けないようにした手と考える。ところが42玉とするとこの歩が価値を増す。42玉によって藤井システムが機能し始める。それに康光が真っ向勝負という図」
「10/32玉まで矢倉の早囲いと考えられせんか?藤井陣はまだ居飛車ですし」
「ここで矢倉にすると端歩に二手かけた手が緩手となる。藤井システム以外選択肢はない」
「11/77角です!先受けですね」
「それも先入観。32玉に対する応手。53地点が空白の瞬間を狙ったと考える」
「12/42銀!これは53地点を補強した手と?」
「康光迫真の最強手!15歩を無駄にする新展開を示唆。命が漲っとるぞ!」
「順位戦でよくこんな手が指せるもんですね」
「順位戦は時間がある壮大な実験室。爆発しても再建可能。トーナメントなら一発でアウトになる危険手」
「13/67銀です」
「15歩を突いたからには、藤井システム起動後の絶対手」
「14/33銀!」
「信じられん!15歩を二手の無駄手にしようとする強手!」
「31角と引いて8筋攻めですか?」
「2手かかる。それでは向い飛車とされて15歩を生かす展開」
「15/36歩です!」
「55角出が消えたからね。地獄固めを回避する必然手。藤井システムなら桂跳ねから銀出の常套手段」
「62銀-88飛車と普通の向かい飛車の展開です」
「それ以外考えにくい局面。藤井には別の手があったかもしれないが全く未知の将棋を恐れた気配」
「53銀-28銀」
「康光は必然。藤井28銀はシステム本家の自信が招いた問題手」
「20/74歩-48玉」
「最も難解な二手。ここは素直に思考する以外ない。48玉では15歩が生きる展開ではないと」
「つまり二手損?」
「一手損。康光後手にすでに先攻する権利が譲渡された為、藤井システムの攻撃性は消滅し玉の不安定度は増した。28銀-48玉は疑問手に逆行転化。康光の藤井システム破り第一段階成功」
「22/64銀-78飛」
「康光作戦勝ち。これではっきり15歩が無駄手」
「玉を広くする手に相転化できませんか?」
「その可能性はあった。ここではもう間に合わない」
「24/44銀!」
「作戦勝ちを確定する強手。48玉が負担」
「27/39玉」
「この守りの三手で先手の攻め筋は受からない。先手からの攻めもない。この局面すでに後手優勢」
「後手の囲いは不思議ですねー。カニカニ銀ですか?」
「先手が居飛車なら児玉定跡で見かける形。対振り飛車では無双銀。二枚とも犠牲になる。先手は5/58金の為に38飛車からの玉頭攻めもできんから生じる形」
「佐藤先生余裕で囲いますか?」
「今三間だから32玉までの二手が15歩の分。もしここで金を締めたら先手が取れん」
「28/75歩!」
「ここで勝負!」
「32/31角までです」
「康光の攻めは棒銀一直線。無駄手が皆無」
「藤井先生37角の飛車狙いは?」
「そんな手ない。55で止められる。そのための44銀。棒銀は受からん」
「33/46歩です!」
「藤井の勝負手!」
「34/55歩!」
「56銀からの特攻を防ぐ好手」
「35/37桂」
「攻め合いの綾をつくるにはこれ以外ない」
「36-50/88飛成」
「これが双方の想定局面。康光には無駄手がない」
「大変な労力ですね」
「プロ同士なら必ずこうなってほしい。それ以外はじり貧」
「後手が有利と?」
「50手めの局面は後手優勢確定。ところが藤井陣が作戦負けをも自認して固めた玉が余りに遠い」
「と言うことは?」
「勝勢への道に迷いが生じるはず」
「51/79歩です。青野先生だったら余りにつらい受けと言いますか?」
「どうかね」
「52/73桂馬?」
「康光なに考えておるんじゃろーね。局面戻せ」
「50手めです」
「先手は銀二枚歩が三枚。飛車は取られて角は隠居。まるで攻めが続かない。守りの固さを活かして攻めさせてどこかで二手稼ぐ以外にない。なんとか攻めあいに誘導するには37&77桂馬と持ち駒を連動させる以外ない。最後に角が飛び出て勝負形という構図」
「45の押さえは?」
「それは味消し。変化が単純になるだけ。先手にまず攻めてもらう必要がある」
「それで79歩ですね。99飛車と香車取ってはいけないんですか?」
「 康光の思考順序想定
第1は取らない。自玉が44で裸では流れ弾にあたり頓死を食うかどうか。
第2は、底辺部で巣くう遊び駒の活用。
第3に駒得。今飛車と銀2枚の交換なので香車を取る」
「それで73桂馬としたんですね」
「贅沢な手じゃねー。さっぱり意味わからん」
「でも贅沢と?」
「先手は攻める手がないのにあえて攻めさせる手。康光のこの第4思考は常識人にはない」
「最短距離を狙ったということですね」
「勝負所を過ぎて一手の余裕も見せないという手が実は落とし穴。もう優勢なのにそこまでやるのは人間の限界を越える意思の表れと評価するしかない。そこまで踏み込むには今までの50手で康光の頭脳は疲労しすぎ。そこに読みの盲点が生じる」
「これは悪手と?」
「逆転したかもしれんね」
「53/89歩」
「逆転確定。これで香車もとれなくなった」
「54/84龍と悠々と引き上げて4段目の守りに光っていますが」
「藤井は手ごたえ掴んだはず。駒交換できる。三枚の攻めならきれないとね」
「55-61までです」
「必然の桂交換、桂馬のふんどしかけさせて藤井は手駒銀二枚桂馬2枚。これで大逆転。52/73桂は大悪手。局面戻せ」
「51手めの局面です」
「康光の心理分析。これは海」
「は?」
「康光に確実なのは自己認識機能が海にあるということ」
「玉が裸で放置され、先手番を握っているということですね」
「藤井は銀二枚で攻めようがない。従って
1=玉の自己保存機能は休止。これは正しい判断」
「問題は2番目ですね」
「そう。遊び駒の活用。これが自己認識機能の範疇。ところが康光陣は遊び駒の宝庫。一段目にずらっと勢ぞろいしとるね」
「玉と銀だけがありませんがあとは角付でワンセット不動のままです」
「お行儀よい園児。園長だけがひとり44地点で舞いあがっとる風景」
「園長先生が園児に駆け寄るのは?」
「1=玉の自己保存機能は休止という判断はすでに下しとるからね。そうゆー迎合するとガキんちょにナメられる。園長は実は孤独を楽しんでいる」
「園長は唯我独尊でよいと?」
「そう。放っておけばよい。敵は銀と歩しかない。パチンコ桂馬も飛び出たらその時よける」
「でも園長先生迷ったんですね」
「人間の迷いは実は自己認識機能からしか生じない。ところが康光は1と2を混ぜて思考してしまった」
「園長と園児が仲よくなるようにと?」
「そっ。それでただの園庭が海に化けた。自己保存機能は実に単純。玉の安全度チェックで済む。ところが自己認識機能は無限の海。康光はこの海に玉を自ら投げ入れた」
「それで大悪手を?」
「盤面が海に投げ出された時、自己認識機能は畏怖し盤面を離れようとする」
「どこへ?」
「自己認識機能の糸がつらなる迷いの渦中へ。それが漆黒の海。盤面を離れた自我の世界。園長の孤独が康光に乗り移った」
91手で先手藤井九段の勝ち