聖戦幻想  2002.01.22 


「報復するそうですね」

「報復の裏の意味は在庫処理。あれは茶番。減価償却が終わっている。最後はトカゲの尻尾切り」

「よくあそこまでやらせましたね。やっばりイスラム原理主義者?」

「ISLAMIC“FUNDAMENTALISM”なんて俗語。マス・メディアが勝手に用いてきた用語。定義が不明確ないい加減な言葉。しかもテロリズムのイメージが強すぎるから、学界でも評判が悪い」

「すいません、解説お願いします」

「あれは表向きは聖戦の宣戦布告だが、裏は性戦だったということ」

「いきなりカマしますね」

「いいか。イスラム教はかつてサラセン帝国を築いたが、米国はイスラム教を今最大の目の敵にしている。なぜかわかるか?」

「++++誌にハーレムの美女が掲載できないからですかね?」

「比喩としてはそうだ。1970年代以降、世界各所で同時並行的に発生した宗教の復興現象・政治化現象は、この欲求不満が原因。米国は12億のイスラム教民族を凌辱同然の状態にまずしなくてはならなかった」

「過激な推論ですね」

「推論じゃない。世界平和のスローガンで世俗化・脱宗教化が地球規模で一挙に進んだが、それは一方で、伝統的な道徳観念が崩壊することへの人々の危機感を激しく煽り立てる結果となった。それは民主主義の崩壊を招くアナーキーな思想を構築する土壌。だからこそ民主主義国家の主導者たちは、敵が必要だった。そしてイスラムに特有の思考法を利用して、イスラム「原理主義」なる造語をつくってテロリズムと同義語にしようとした」

「そうだったんですか?」

「そこでイスラム復興の直接の契機となった、1967年の第三次中東戦争におけるアラブ諸国の大敗を利用した。イスラムはユダヤ教の誤りを正して完璧な宗教を目指すのだという厳しい自己規定に目をつけた」

「自分を縛るとこに目をつけたんですね」

「イスラムは、イスラム教徒にこそ神は栄光をもたらすと信じている。ところが、ユダヤ教徒の国イスラエルにアラブが敗れてしまった。このジレンマを説明するために、イスラム信徒はネブカドネザル時代の発想をぶりかえした」

「といいますと?」

「自分たちが世俗化し、イスラム法を捨てたがために、神の怒りを買ったと考えた。イスラム復興はもともとこのような自虐から始まった」

「自虐なんですか?」

「中東各国の主導者がそれを強いたんだ。1970年代にイスラムの間に広まったイスラム復興気運を民衆にあおって、多くの国の政権がイスラム政府を名乗るようになった。イスラム法に従うイスラム社会なるものを、誰も批判できない国是としてね。そこでイスラム主導者たちは反帝国主義闘争という言葉を聖戦に代えて、イスラム化を進めた。かつてのサラセン帝国を夢見て、政治をイスラムの文脈で語り始めたわけだ」

「宗教を利用したんですね。でもアラブ人ってそこまで単純ですかね?」

「主導者は単純どころか狡猾だ。イランはイスラム復興の気運は無視して、強力な西洋化を推進。だがその結果、イラン王政はやがて「反イスラム」のそしりを受け、79年のイスラム革命で滅んでしまった。今回のテロはこれを狙っている。その一方で、イスラム政治を掲げた国々で多くの反政府運動が生まれてしまった」

「米国はまさにそれを望んでいたと?」

「そう。内乱をさせるのが一番効率がいい。しかも内乱鎮圧を理由に軍事介入ができて一石二鳥。今回のテロ事件は、やったほうもやられた方も見る方はレイプを喜んでる。死んだ者の遺族が悲しんでいるだけ。だからこれを戦争扱いにして、戦没者遺族年金を発布しようとした。そうでないと米国ももたないからね。国民がそれを負担する仕組み」

「まさに自虐地獄ですね。それでもテロリストは命を張って民族を守ろうとするんですかね?」

「彼らは 1960年代以降間断なく続いた人口爆発の落とし子たちだ。就職難に直面した高学歴青年層と、住宅難に苦しむ大都市周辺のスラム住民が、自己の不満を表現するために、テロ集団に参入した。彼らがイスラム運動を名乗って飛躍的にその勢力を拡大して国境を越えたのは、言わば欲求不満の爆発」

「経済的な苦境にある高学歴青年層とスラム住民?」

「そう、反政府イスラム運動の隆盛を支えているのは、彼らの不満。議会制とは名ばかりの独裁ではね。しかもイスラム運動以外の代弁者をいまだ見出せない。各国政府が深刻な就職難・住宅難を解決するか、自由な政治活動を認めないかぎり、イスラム運動への広範な支持は続く仕組み」

「でも日本だってどんどん経済悪くなってますよね」

「民主主義陣営とアラブ陣営が期待しているのは戦争特需だ」

「その話しそっくり差し替え可能と?」

「比喩としては可能。村の出来事なら無視できるが、文化として語るなら必須の比較。それで各国の経済が好転したとしても、政治活動は不自由となる。つまりそれだけではイスラム運動の勢力が大きく後退しない。大半のイスラム教徒に、逆にイスラム政治こそ理想であることを認識させてしまう。政教分離を否定するイスラム思想の伝統が崩れないかぎり、イスラム政治を求める運動は終息しない」

「政教分離なんて今さらできるんですかね?」

「トカゲの尻尾切りばっかやってたんじゃそのうち張る」

「マラ張ったんエロ?」

「マンハッタンテロ?」