黄色い

黄色い色は自然界ではあまり見ることがないような気がする。
だけれどもその国はとてもまぶしい原色の、黄色の太陽がサンサンと光りをふりそそいでいた。

アフリカに取材旅行に行った時の話だ。
アフリカに来て初めての印象は色だった。何がどうとかは言えないが色が根本的に違うそんな感じがする国だった。
僕たちはアフリカ南西のとある小国に入って行った。そこには呪術師の一族がいると云う。
目的地は遠く、ジープははるかな大地を何時間も風景を変えることなく走っていく。
途中小さな町があり水とガソリンの補給をした。
僕もジープから降り、小便ついでにそこらをふらりと散歩していた。

ふと、視界の端になにやら小さな影が横切る。なんだなんだと建物の影へと進んでみたところ、突然に視界が開けた感じがした、まぶしかった、原色の光りが僕を襲う。

不思議の国?
そこは全てが何やらいいかげんでふざけた場所だった。
まるで紙に絵の具で絵を描いた様な風景が広がる。子供の描く独自の世界。
僕は少しぼんやりと・・・そして徐々に脳を動かす。
はっ、と振り返るがすでに、今までいた町はそこにはない。
そうださっきの影はなんだったのだろう、まわりを見渡して見る。・・いた!木陰でくつろいでいるそれは?
ぬいぐるみだった。でも、動いていた。ぬいぐるみなのに!
たぶんうさぎのぬいぐるみだ。コミックタッチのつぶらな瞳がまばたきをする。
「なんだい君は?」
わあっ!!ぬいぐるみがしゃべった!?
「失礼しちゃうね、ぬいぐるみだなんて私は博士なのだよ、それも特別な博士だ、とくべつ博士と呼びたまえ。」
ああ、もう一体なにがなにやらわからない、博士?とくべつ博士?
「そう、とくべつ博士だ。まあちょっと聞きたまえ、君は妖精を見たことがあるかい?」
「・・・・ない・・ですよ。」
「やっぱりか、おっ!」
と言うととくべつ博士であるところのうさぎのぬいぐるみは、目の前を飛んでいるトンボのような生き物を捕まえた。
「ほらこれだ!」
またまたおどろく、それはちっちゃな人間に羽が生えたような、まさに「妖精」と呼ばれるモノだった。
「これが妖精だ。そして食べるとおいしい」
そう言うと博士はパクリとこれを食べた。
「これが問題なのだ。」
博士は口の端から垂れる血をふきとりながら言う。
僕はもう、ことの急展開についていけなかった。おいしいの?

「とてもおいしいのだけれども、大発生しすぎている。昔は人間がこれを食べていて、生命のバランスがとれていたのだけれども、今はほとんどの人間が妖精を見ることすらできなくなっている。妖精は夢を与えてくれる。妖精を食べても栄養にはならない、けれど食べたものに夢を与えてくれるのだ。
人間は夢を見なくなってきている。
妖精は増えすぎた。人間は夢を見ない。
妖精を殺さなければいけない。そうしないと生命のバランスが崩れるからだ。
しかしだよ逆に考えれば、人間の方を殺すのも一つの方法かもしれないじゃないか。
そんなところを私は悩んでいるのだよ。」

そんな話をうさぎのぬいぐるみのとくべつ博士は言った。
僕にはそんなことに答えを出せるわけもなく、どうしたもんかねと頭を悩ませてみる。
「しかし、まぁ少し時間をおいて行動に移るとするさ。オマエは人間なのだろう?そうして妖精も、この私も見ることができたのだ。そんな人間が少しでもいるのならなんとかなるかもしれない、まぁならなかったら死ぬだけだ。妖精か人間が。ははははっ」
そう言い残して博士は消えた。すると風景もぼんやりと揺らいでいった。

まぶしい、黄色い太陽が真上にある。
「ちょっと!大丈夫ですかー!!」
えっ?
顔を上げると通訳のスタッフが心配そうな顔で見ていた。
元のアフリカの町なみ。
どうやら熱さにヤラレテ倒れていたらしい。
「あれ、夢か?」

そのあとの取材は順調に進んで言った。呪術師にインタビューしたときに、とくべつ博士の話をしてみたら彼等は大きな声で笑って「それはラッキーだ!」と言った。そして「忘れるなよ。」とも言った。

帰ってからリックの中にトンボの様な羽が一枚。



わーむほーる