「世界と私。」



腕がかゆい。

クラスメイトの席に花が添えてある。
先日、ヤツは死んだ。

クラスメイトと言っても友達ではなかった。
オレと数人でいじめていた、そんなヤツだった。
死因は自殺。

新聞には「いじめを苦にして自殺」とでも載りそうな話だが
実際に新聞やニュースが取り上げたのはそれとは違う方向の話だった。
「いったい彼はどうやって手に入れたのか?」

ヤツはオレ達の目の前で死んだ。
屋上から飛び下りるとか
クスリを飲むとか
手首を切るとか
そういうやり方じゃなかった。

ヤツはその最後のときオレ達に向かって言った。
「僕が死んで、僕が世界から消えてしまうんじゃないんだ。
 僕以外の全てが死んで、僕の回りから君ら世界の全てが消えてなくるなるだけなんだ」
何をバカなことを言っているんだ、とオレは思った。
だが、ヤツがその背中から取り出したものを見て凍り付いた。

拳銃だった。

「いいかい、もう一度言う。僕が消えるんじゃない。君たちが消えるんだ。」

オレは撃たれると思って逃げ出そうとしたが体動かない。
硬直した俺を見るとヤツはニヤリと笑って
その銃口を、自分のこめかみに当て、引き金を引いた。

いったいヤツがどうやって銃なんか手に入れられたのか?
それは結局わからなかった。
それよりも最後の瞬間に見たヤツの目の青い光が頭から離れない。

腕がかゆい。
ぼりぼりとかきむしっていると
なにかぶつぶつが出来ているようだった。
ますますかゆくなってゆく。
おかしい、腕だけじゃ無い、
足も、指も、顔も、耳も、首も、体も、背中も、全てがかゆい
かゆい、かゆい、かゆい
オレは冷や汗を滝の様に流し、ぱたりと倒れた。
女の子が倒れた俺を見てキャーとか叫ぶかと思ったが
静かだ。

「かゆい。」
そんなつぶやきが聞こえて
ぱたり、ぱたりと人の倒れる音がする。
目に見える俺の右手は紫色に腫れ上がり、もう感覚もなければ動かすこともできない。

よくわからないがたぶん毒とかウイルスみたいなもんだろうと思う。
ちくしょう。
ヤツはいったいどうやってこんなモノを手に入れたのか。
ぱたりぱたりと音がする。
その音が消えるたびに
世界はどんどん静かになってゆく。

そしてそれは風に乗り世界に感染してゆく。
ぱたりぱたりと音がする
世界が白く白くなってゆく。

もう世界にはヤツだけしかいなくなった。



わーむほーる