シーン8
EINSTEIN

そのころジンノとオレンジは管制室の侵入に成功していた。
「オレンジは外で見張っててくれ。」
「わかった、そっちはまかせる。まあそんな機械の山、俺にはどうすることもできんからな。んじゃ何かあったら呼んでくれ、それと銃声が聞こえたら、それが合図だ、すぐ逃げろ。」
「はは、わかったよ。」
たのむぜ、オレンジはそう言ってドアの向こうに行った。
「さてと、久しぶりだな。」
ジンノは部屋にある機械の電源をパチンと入れた。正面のパソコン画面が立ち上がる。手慣れた手つきでジンノはキーボードを使いパソコンを操作する。
ヴン。
画面上にビデオ画像のウインドウが開く。そこには一人の人物が映し出されていた。「人鳴・カグヤ」、森絵・カグヤの父親であり、カグヤの国の統治者である男だ。
「ヒトナリ、久しぶりだな。」
ジンノがパソコンのマイクに向かって答えた。
「ジンノ?おまえか、なんだか楽しそうなことやってるじゃないか。こんなコトするんだったら早く教えてくれよ。なあ何をやってんだ?教えろよ。」
「まあまあ、そう焦るなって、これは俺の実験だよ。人鳴、おまえにも参加してもらうぜ、それと資産提供だ。」
ジンノはニヤリと笑って言う。
「おいおい、資産提供ってのは宇宙船のことじゃないだろな?今、宇宙船に向かってる侵入者を一人確認しているが、そいつにみすみす盗まれろって言うのかい。」
そりゃないぜ、そんな顔で画面の中の人鳴カグヤは言った。
「その通り!よくわかってんじゃん、さすが天才クンだね。」
ジンノはヘラヘラと受け答える。
「ちゃかすなよジンノ。今、社長室で娘とお友達の相手もしてるところなんだぜ、よくわかるように説明してくれ。」
「ふふ、娘ねぇ、なかなか面白い成長をしたな、あれだけはよくできてるよ、おまえにしては、しかし、ほかが全然だめだ。これじゃ同じことを繰り返すだけだ。」
画面の男の動きが少し止まった。
「しかし、あれ以上のことはオマエだってできないだろう?」
ジンノは前髪をかき上げ静かに微笑む。
「それが、今、この計画と繋がるんだよ。この計画は俺が考えたものじゃない。少し協力はしてるが基本的には彼等の考えだ。どうだい?すごいと思わないか、人鳴?」
ジンノはすごく楽しくってしかたがない、そんな顔で言った。人鳴は一瞬、嘘だろ?って顔で考えこんだが、しばらくして自分の想像に驚き、現実のデータと照らし合わせた。開いた口が塞がらない、そんな驚きようだった。ジンノはその姿をとても嬉しそうに見ていた。
「うーん、それでジンノ、これからどうするんだよ?何か考えてるのか。」
「いーや全然。」
ジンノは軽く一言で答えた。
「全然ってジンノ!こんなすごいことをそんな適当でいいのかよ!?いや、本当はなにか考えてるんだろ?なあ?」
「ふふーん、わかってないなぁ人鳴は、昔からオマエはそうだったよ、計算とデータ、そればっかりだったもんな。」
「あ〜何だよ、わかってるよ、そんなことは。俺は俺のやり方でやってんだよ。あ、ちょっと待っててくれ、おまえさんの仲間の相手をしなけりゃならん。ということとはなんだ、ばらした方がいいのか?」
「ああ、もちろん、それをお願いに来たんだよ。」
「しかし、それはヤバくないか。あっただろ昔の実験で暴走したことが。」
「大丈夫だって。そんなことになったら俺も生きてられないだろうよ。」
「まあ、そりゃそうか、それじゃ後でな。」
人鳴はスイッチを切って通話を止めた。管制室ではモニターの光りがジンノの顔を妖しく照らしていた。

シーン9に続く