シーン3
ANIMALS

「ははははは、オマエなかなか話わかるじゃねぇか。」
オレンジがジンノの肩を叩く。
「はは、アンタも面白い人だね。」
ここはとある町の隅っこにある酒場だ。あれから彼等の丁重な説得の末。俺らは彼等の計画の手伝いをすることになった。・・・なったんだよ。
しかし、しかしだよ。なんだコイツらの順応性は!ジンノもジンノだ。なんで楽しそうに酒なんて飲んでられるんだ。ヤバイ計画なんだぜ?女もいたなそういえば、彼女は名を「森絵」と言うらしい。森絵はこの世界にいる人間なら知らない者はいない大会社「KAGUYAコーポレーション」の社長の一人娘らしいのだが、その森絵も今この酒場でカラオケを熱唱している。かなり酒ぐせが悪いようだ。やれやれだ。
「な〜に〜マリオくん、くら〜い。楽しみなさいよ。はーいお酒どうぞー!!はははは。」
これだもの、みんな本当にこの計画のヤバさ加減わかってんのか?
その中で照明の影に隠れるように静かに酒を楽しんでる風な髭の男、オレンジの兄貴分、ジョン高松と名乗った男。
「なあ、高松さん、こんなんで本当に大丈夫なのかい?」
マリオはすこし上目使いで聞いてみた。
「ああ、そうだな、いけるんじゃねーのかな?」
この人も結構酔ってるよ。

話は6時間ほどさかのぼる。

僕らは5人は車に乗っていた。計画の準備をするためだ。
この計画には綿密な作戦と準備が必要だったのだ。
高松はあの時たしかに言った。
「これからヤル仕事は、船を貸してもらいに行くコト。宇宙を飛ぶ船だ。」
もちろん貸してもらいに行くってのは、つまり盗むってことだ。
なんてこったい正気かこいつら、とその時は思ったさ。だってそうだろ昔からハイジャックとか成功したためしがない。ましてや宇宙船だぜ。破壊するのならともかく。傷つけずに乗っ取るってのは聞いたことがない、今まで実行した奴なんかいないはずだ。
でも、どうやら不可能ではないらしい、このメンバーなら。
空はとても青い。風は少し吹いているようだ。
車の運転はオレンジがしている。彼はこちらから何か話かけないかぎりもくもくと自分の仕事をこなす。その時の彼はまるでロボットのようで冷たい怖さを感じる。
「で、実際にはどこの宇宙船を狙うんだい?高松さん」
ジンノはもうかなり乗り気のようだ。
コイツとは数年前にネットで知り合いになってから意気投合して、一緒に電子詐欺まがいのことをして、その金で暮らしてた仲なんだが。今だによくわからないとこがある。この場面でもそのことが判明した。
「あぁ、と。オマエはジンノだったな。元科学技師の。」
高松が言う。
「あぁ、そうだよ。」
ちょっとまて科学技師だぁ?ジンノの野郎、オレと会った時は学生とか言ってなかったか?
「狙うとこはそう、このお嬢ちゃんのとこだよ」
高松は森絵の方にちらりと視線を預ける。
「らしいわね。」
森絵は軽く答えた。
「いいきみだわ。ウチの父さん散々あくどい商売やってきたんだから、天罰よ。私には社会勉強だってお金ほとんどくれないんだから。ちょっとはヒドイ目に会えばいいんだ。」
なんだかな発言だが。金持ちのお嬢様ってもこんなもんなんだろう。宇宙船一体紛失はかなりの痛手だと思うけどな。
「お嬢さんには侵入の手引きを、それと人質だな、一応。で、ジンノは宇宙船の発射までの制御を。そしてマリオ、君にはすべてのコンピューター関係のハッキングをお願いする。」
マリオはネットの中では有名なハッカーだった。しかし名前は伏せてあったのだが、どうやら彼等にはその手の情報が簡単につかめるらしい。
「詳しい計画はまた明日話す。今日はとりあえず次の町で買い物をすませて。それからだ」

で、必要な機器など購入した後、俺達五人ここにはいるわけだ。
さわがしく、とても陽気な雰囲気のこの酒場に。
これが数日後、とんでもない犯罪を犯す集団だとは誰も気が付かないだろう。

シーン4に続く