シーン16
SILENT SONG

マリオが町はずれでジンノを待っているとき、その空に小さな流星のようなものが見えた。それはオレンジ色に光っていて地上目がけて落ちているようだった。
「あ、また衛生が落ちたのかな?」
前時代に大量に打ち上げられた、様々な目的を持った人工衛星は今はただこの星の引力に少しずつ引き寄せられ地上目がけて落ちていく。そしてそれは大気との摩擦熱で燃え尽き再びこの大地に降り立つことなく消えていく。その一瞬に見せる鮮やかなオレンジの光はこの砂漠の中でとても奇麗だ、そうマリオは思う。

ジンノはカグヤビルの管制室で高松とオレンジを宇宙に送った後、彼等が「宇宙コロニー」に着くまでをモニターしていた。もちろんジンノが見てることを彼等は知らない。
そして言いにくいことだが「宇宙コロニー」なんてのはないんだ、高松、オレンジ。
ジンノは彼等の最後を見る。

二人の乗った宇宙船は目的の場所に近づいてきた。しかし高松はすぐにおかしいと感じた。たしかにそこにそれはあった。だが目の前に迫るそれはあまりに小さすぎた人間が住むにはあまりに小さな物体だった。
それでも彼等の乗る宇宙船の10倍はあったそれは、銀色をした球形の物体で、どこにも継ぎ目の様なものはなく、ただただそこに浮いているだけだった。
高松は理解した宇宙に人間はいなかった。地上にいるものの幻想だったのだ。理想の世界を見るもの達の、見てはならないパンドラの箱。
しかしこれはなんなのだ?さっぱりわからない。と思ったときその球形の物体に小さな扉が開いた。
「兄貴、あれが入り口かい?」
オレンジの質問に高松は答えない、答えることができない。
「あ、ダメだ。」
高松はそう思った。黒くぽっかりと開いたその穴から光が発射された。光線、激しい振動が二人を襲う、何も考える間もなく宇宙船はこっぱ微塵に破壊された。
二人は死んだ。
しかしその一瞬に高松、オレンジの頭の中の何かのリミッターが外れ読み込まれることのなかった「記憶」が流れ出した。
自分達がアンドロイドであるということ、そして人間と自然が復活するまでの代理だということ、そしてあの銀色の球体が全人類のデータを全て詰めた保存球であるということを。
しかし高松は思った。いまさら難しいことはもういい、俺は人生って奴を楽しんだからな。高松はなんだかすがすがしい気分だった。事実がどうだか知らないが俺は自分を人間だと思う、それがただの記憶であったとしてもだ。
オレンジが何か言った、
「なあ、兄貴なんだか歌が聞こえないかい?」
「・・・ああ、聞こえるよオレの好きなあの歌だ。」

破片となった宇宙船と二人の部品は地球の重力に引かれて落ちていく、大気との摩擦で激しく燃える。それは地上から見るとオレンジ色した流星に見えることだろう。地上では誰かが見てるのだろうか?再び地上に降り立つ前に燃え尽きるその流星を。

シーン17に続く