シーン14
FACT

私は森絵、
森絵カグヤ。砂漠の中にあるカグヤの国に生まれた。
父親は人鳴カグヤ。この国で一番偉い人。でも本当は父親ではない。本当の?
それは記憶の中の話。
母親は私が幼い時に死んだ。それは聞いた話。
他人の記憶の中の話。
私は生まれた?
どこから生まれた?
製造番号XA19982739。
生産された。
記憶が流される、私の頭部にある小さな電子部品の中に、電気的刺激、その流れる動き。
それが記憶。
私はそのとき知らない誰かになった。
いや、よく知っている。
幼いときのこと、やさしい母、厳しく、しかしあたたかな父の背中。
それは森絵カグヤの記憶。
そして今は私が森絵。
そう私は人間なのだ、今は私が・・・。
今は?
昔の私は何だったんだろう。考える。
・・わからない。
どこから来たのだろう、私は。
思考に霧がかかる。ぼんやりと、光りが、見える気がする。
嘘だ。
私が生まれる前、生産される前は「無」であるはずだ。
何もない、どこから来るわけでもない。ただただ生命は生まれるのだ。
「生命」
私は自分の思考に戸惑いを覚える。

人工の機械人形の私に「生命」?馬鹿げてる。
思考のリミッターがはずれているようだ。とめどない思いがあふれてくる。止まらない。

そういえばここはどこなのだろう?
身体感覚がとても薄く。宙を漂う様な感覚。
そうだ私は何をしていたのだろう。
・・・ああ、そうだ。
妙な盗賊と宇宙船を盗みに来たのだ。
そう、そして父に会った。
彼はなんだかよく分からないことを言って。何かのボタンを押した。
・・・そこで私の記憶は切れた。
続きはない。
記憶が終わった。
私はそこから一歩も進まない。
情報は一つも入ってこない。
私はこの状態がかなり長い間続いているように感じた。
私の思考は一つの終点を向かえる。
「死」と言う言葉が出てきた。

私は死ぬこともできるのか、と思った。
私は森絵。
今はただただ宙を漂う思考する塊。

シーン14に続く