シーン12
THE MONSTER T.V.

「はっ!侵入成功だ。」
ジョン高松はなんなく宇宙船の侵入に成功し、ニヤリと笑う。
あとはアイツが操作キーをこちらに送って来るのを待つだけだ。そう、ジンノだったか?アイツはなんだか不思議な奴だ、昔どこかで見た様な気がするんだが。思い出せない、新聞だったかな、いやテレビでだろうか?実際会った様な気もするんだが、思い出せない。まあ世間には似たような奴が沢山いるからな、気にすることもないだろう、俺がこれから確認することに比べれば。
そう、俺の様に盗賊業をする者は”人殺し”の道は避けて通れないものだ。俺も何人かヤった。そのときは異様な高揚感に包まれていて、一瞬記憶がとぎれることがある。人を殺すというのはこういうものだろうと思っていたが、5人ぐらい殺した時ふと気が付いた。「俺は死体を見ていない。」
殺す瞬間、つまりは銃を打ち相手が血を吹きだし倒れこむ瞬間ははっきりと記憶にあるのだが、倒れこんだ死体を確認していないのだ。いや、本当はしているはずなのだ。相手の生死を確認しないことにはこの家業はおちおちと眠ることもできない。確認はしている、確実に。しかし、その記憶がないのだ。ぼんやりとはその光景を思い出すことは出来るのだが。肝心の死体がモヤがかかったようにぼやけて見えないのだ。
それからも何人か殺したが結果は同じだった。
俺は死体を見ることが出来ない。それどころか俺が殺したんじゃない死体も見ることができないのだ。オレンジに聞いてみたことがある。「おまえは死体を見たことがあるのか?」と
オレンジは言った。「ないよ兄貴、だってあんなエグイの見たくもないじゃないか。テレビとかではみたことあるけどさー、それがどうかしたのかい?」
俺の中で一つの疑惑が生じた。
他の仲間に聞いても答えは同じだった。そしてそのことに何の疑いももっていない。
俺だけなのか?俺だけがおかしなことを考えているだけなのだろうか?
気にするな、と俺の中の誰かは言う。
しかし、もう遅い。
俺は旅に出た。
そして、ここまでやって来た。ここで何かがわかる気がするのだ。いや何もわからないのかもしれない。それでもいい、俺のこの目で確認させてくれ!宇宙ステーションなんてのが本当に存在するのか、何故死体を見ることが出来ないのか。俺が狂っているのか、どうか。
高松は宇宙船の操縦席に座り、深く目を閉じてそう思う。 ただ確認させて欲しいだけなんだ。

ブゥン
高松の前にあるモニターが淡い光りを発して起動した。通信のウインドウが開く。その映像はジンノを映しだした。
「やあ高松さん、うまくいったみたいだね。」
「当り前だこのくらいのこと。で、そっちはオッケーなのか?」
「こちらこそ当然さ。もう今すぐにでも空の彼方に飛んで行けるゼ。準備はいいかい?」
「ああ、オレンジはどうしてる。」
「今、そちらに向かったよ。んじゃ乗客は二人ってことで。」
「ん?おまえらはどうすんだ?」
「俺達は別にいいよ、宇宙に行ったって別にすることないしね。そうだ、もう教えてくれてもいいだろ、アンタがそこまでする理由ってなんなんだい?」
高松はふっと天井を見上げ、ちょっとの間をおいて言った。
「まあいいじゃねえか、くだらないことさ。しいて言うなら男のロマンってとこかな。ははっ」
「ふうっ・・最後まで本音は吐かないね。・・確認したいんだろこの世界を‥‥・・。」
ジンノの目が何かを見透かすように鋭く高松を見つめた。
「オマエ、何で・・・何か知っているのか。」
高松は驚きの感情を押し殺して言った。一雫の汗が頬を伝う。
「さあね。」
ジンノはニカっと表情を変え楽しそうに笑う。
「俺は知っているといえば知っているけど、今言葉で説明してもそれはアンタにとってなんの意味もないことだよ。自分の目で確認しなければならない、そうだろ?」
「ああ、そうだが。」
何者なんだコイツは?高松の思考はまた激しく混乱する。ジンノ。俺の調べたデータにも変な所はあった。ごく最近のジンノの個人データは確認がとれていたのだが。それ以前のデータに明らかな壊残の後が見られるのだ。年齢さえも誤魔化しているようだった。時折見せるその知識も的確で正確、ただの技術屋だとは思わなかったがいったい・・・・。
「それじゃあまた後で、オレンジが着いたら連絡してくれ。」
ジンノはそう言うと通信を切ろうと手を伸ばした。
「おい!ちょっと待てよ。オマエ何たくらんでるんだ!?おい・・。」
ブン、高松の前のモニターからジンノの映像が消えた。
「チッ、いったい何だってんだ。踊らされているのは俺なのか?・・何をやらせるつもりなんだか。」
チクショウ、難しいこと考えるのはヤメだ。死ぬことはないみたいだしな、腹決めてジンノ、いやアイツだけじゃない、誰かの書いたシナリオだ、これは。ここまで来たらとことんまで付き合ってやるぜ。クソおもしろくもねえ。
高松は前に並ぶ機械類の上に両足をドカッを乗せて帽子を深くかぶりなおす。
自分の書いたシナリオは却下され最低な気分だったが、高松は妙な高揚感に包まれていた。
何かが分かりかけてきた気がする。

シーン13に続く