シーン11
TAKIN RIDER

さて、と。ここまで来るのに偉く時間が掛かったな。
ジンノはフッと息を吐いてつぶやく。
人類の可能性。
ジンノの指はパソコンのキーボードをリズムよく叩く。カタカタ、カタタタタ。もう高松は宇宙船に乗り込んだだろうか、もうすぐ発射のスイッチはこちらで出来るようになる。
・・長かった。ここまでが。

「最後の時」は時代の終わりであり人類の終わりでもあった。今、この世界の歴史では
「突然の地球規模の災害が起こり、その大地の大部部分が砂漠化、人類は抵抗も虚しく世界人口の四分の一が死滅した。」
と書かれてある。もちろんそれはこの世界のデータであって、実際のコトとは少し違う。
これは人為的な出来事なのだ。

最後の時以前、地球の状態は最悪だった。空気の汚染、自然の破壊、電波障害。全てが限界値をとっくに過ぎていた。あらゆる対策が講じられたが無駄だった。原因は分かっていた。人間がいるからだ。
どんな対策も人間の生活を守って考えられている、ある科学者は皮肉をこめて言った。
人類こそがこの地球上にはびこるビールスである、と。
そんなコトを言うのなら自分が真っ先に死んで手本を見せてくれよと思うのだが、その科学者はただそう言うだけで具体的な対策は一行に出てこなかった。
しかし全く別の分野からこのような提示があった。

「人類がいらないというなら全て殺してしまえばいいのです、しかしそんなことを言っても誰もが死ぬのは嫌だ。それならばこういうのはどうでしょう、しばらくの間死んでいてください。そして自然が回復してきた時にまた生き返るのです。‥‥なんだ馬鹿なことを、とお思いでしょう。しかしそれは可能なのです。我々の研究がそれを可能にしたのです!・・・・・・。」

彼等はあるコンピューター研究グループだった。
彼等が言うには人間の全てをデジタルデータ化しコンピューターの中に保存することが可能なのだと言う、そしてさらにそのデータからそのデータを持つ人間と同じ肉体、同じ記憶を持つ「人間」を再生、製造することが出来ると言うのだ。
もちろんそんな研究の発表はされていない、倫理的問題から禁止になっているはずだ。
しかしその時には、彼等を言糾している時間はなかった。
人類は選択した。
科学的冬眠を。
時間を越えることを。

そして今、現在、人類は眠っているのだ。この砂漠化した世界が復活するその日まで。そう、だから今ここにいる人間は‥‥・・

ジンノの手が一瞬止まる。
「そう、この地球上の人間全てが。」

「何言ってんのよ!私たちがAIを持った、ロボットだって言うの!そんなはずないじゃない、私はれっきとした人間よ!お腹が空けばご飯だって食べるし、夜になれば眠たくなるわ、それにちゃんと成長しているのよ、ねぇマリオ?そうでしょ。」
森絵のうわずった声がこだまする。マリオは無言でうつむいている。
モニターに映る人鳴カグヤはめんどくさそうに笑っている。
「ん〜説明するのは疲れるんだよ森絵、おまえもマリオ君くらい賢ければこんなことしなくてもいいのになぁ。」
人鳴が手元にあるパソコンのキーをカチャリと押した。
森絵の額に赤い光りの点が止まった。瞬間、部屋の壁からレーザーの様な光線が発射された。
「えっ!?」
森絵の体が後ろに飛ぶ、そしてその頭も弾けた。
「・・・・・・・!?」
しかし、森絵は瞳を開けて「生きて」いた。
「えっ‥何‥‥これ?」
たしかに森絵の周囲には人間の皮膚らしきものが散乱していた。しかしそこには何故か金属製の破片が散らばっていたのだ。
森絵は混乱する、腕も動く、その手で自分の頭を探る、脳が飛び散っているはずだ。しかしそんなものはない、額から上に大きな穴が開いていた。その中を探る。手にごつごつとした感触、まるで機械部品の様な気がする、嘘だ。
「森絵、こっちを見てみなさい。」
人鳴がそう言うとモニターの画面が森絵を映し出した。
そこには頭部を破壊されたアンドロイドがいた。
「・・・・うぁああああ!!!!」
森絵が声にならない声で叫ぶとモニターに映るアンドロイドも叫ぶ。
森絵はこれが自分なのだと理解したがそうは思いたくなかった、混乱は極限に達し、森絵の意識はとぎれた。
「ショートしたか、課題点だなこれは。」
人鳴はふむ、と腕を組んで言った。 マリオは聞く。
「なあ、あんたこれからどうするんだ?」
「私、私かい、それは決まっているだろうAIの研究だよ、言っておくが私もAIを持つアンドロイドだ、しかし、頭脳部にはある科学者の脳がコピーされている。私はその意思をついで研究を続けているんだよ。君達も人類の誰かの記憶がコピーされているんだよ、だから簡単には自分をアンドロイドだとは認識できない、まあ、たまに君みたいなイレギュラーな者もいるがね。」
「それじゃあこの世界には本当の人間は一人もいないっていうのかい」
「・・・そうだよ。」
「そんなバカな!じゃあ人類は俺達みたいな機械にまかせて眠ったままだっていうのかい?そんなこと信じられるかよ!それともなにかそんなに信じられてるのか。」
「ふぅ、あのねえマリオ君。外に見える砂漠、あれが緑の森になるのに何年かかると思っているんだい?百年や二百年じゃたりないんだよ。その時点で人類は終わっていたんだ。これは信じる信じないじゃなく選択肢がなかったってことだよ、これは最後の賭けなんだ。まあ失敗しても全員が同時に死ぬことになるんだから公平だろ?下手な争いも起こらずにすむ。」
「本当に一人も人間はいないのか?」
「ああ、そうだ。現実にいたとしてもこの世界は生身の人間は生きていくことができない、紫外線、空気汚染、その全てが人間の限界値をはるかにこえている。だからいたとしてもすぐに死んでしまうよ。・・でもまぁこれは噂だが我々をずっと監視している人間がいるという話しだ。あくまで噂だがね、そいつは歳を取ることもなくて、またこの世界の汚染にも耐えれる体を持っているとか・・・・くだらない噂話だがね。」
「そうか。それならもうアンタに聞くことは何もないな、じゃな。」
マリオは森絵の残骸はそのままに、部屋を出て行こうとした。
「ちょっとマリオ君、一つ聞きたい。君はジンノといつごろからの知り合いなんだ?」
人鳴が聞いた。
「ん?1年前だけど、それがどうか。」
「いや、そうか。いや別にたいしたことじゃないんだ。アイツは昔からよくわからないことがあるからな。」
「ああ。」
そうジンノ、アイツは何を考えているのだろうか。ジンノも科学者のコピーなのだろうか。いろいろと知っているみたいだが。何故こんな計画に乗ってきたのだろうか。・・・まあいいもうすぐ答えはでるだろう。
マリオは部屋を出て宇宙船のある場所へ向かった。

シーン12に続く