老人カプセル

力が、力が湧きでてくるようだ。
体がこんなにスムーズに動くなんて。
すぱらしい!
これだ、これなんだよ。私が望んでいたことは。
ははははっ!

ブーン。
モニターには町中を走り回る若い男の姿が映っている。
今どきの若い者には珍しいとてもイイ表情で笑っている。
本当に楽しそうだ。

「どうです?とても楽しそうでしょう?」
「ええ、そうですね。しかし、高いんでしょ?コレ」
男の後ろには大きなカプセルがいくつも並んでいる。
「ええ、そりゃこれだけの設備を使用しますから、そこそこお金の方もかかりますがね。これからのことを考えると決して高い値段じゃないと思いますよ。実際、あなたの所も大変でしょう。」
「そうなんですよ、入ってもらう方からは高額な料金をいただいていますが。従業員の仕事は楽にはならない、やめていく子も少なくありません。」
カプセルは昔SF映画で見た様な冷凍冬眠のカプセルに似ている。
その内部はジェル状の液体で満たされており。中には一人の老人がいくつものチューブに繋がれて浮かんでいる。

「医療技術の発展は素晴しい、しかしどんな状態であろうと生かされることができてしまう。「老人ホーム」には家族から放棄された老人でいっぱいだ。痴呆症などの老人はほぼ24時間の介護が必要とされる。看護士も人間だ、介護にも限界がある。酷いところになると老人をベットに縛りつけてるところもあるって話じゃないですか。」
「いえ、まったくおっしゃるとおりです、痴呆症の方も人と触れあったり自分で何かしようとすることで、その症状が直る可能性もあるのですが。現在の老人ホームの状態ではまず不可能でしょう。それどころか入った時点でもう復帰の可能性は無いと思ってもさしつかえないでしょうね。そしてそんな施設の数はとても少ない。高齢化社会だとは言っていても、割に合わない仕事は誰もやりたがるものではありません。だから個人の負担の料金は高くなっていく。」
カプセルの中の老人は少し笑顔を見せている。楽しい夢を見ているのだ。先ほどのモニターに映った快活な若者はこの老人だという話だ。

「そこで私達の技術が全てを解決するのです!この装置はコンピューター制御で御老体を完全介護します。食事もこのチューブを通して的確に行われます。床ずれの心配もありませんし、電気刺激により筋肉が衰えることもありません、むしろ活性化することさえあります。
そして、ここが素晴しいとこですが、とあるゲーム会社の協力によるこのバーチャルシステムの装備です。」
そういうと男はモニターを指差す。
この中の風景はそこのカプセルに浮かんで眠っている老人の見ている風景だ。完全3CGの空間。
そこでは老人は快活に体を動かし自由に動く。さらにネットにも対応しているので同じような人達と若者のように自由に遊び回ることができるのだ。そして通常のインターネットにも通じているので外部の情報も積極的に取り入れることができる。
そうすることで体の自然治癒力が強まり、退院する人も少なくないという話なのだ。

「まさに理想的な装置ですよね。これを導入すれば場所も取らないし、従業員の負担も大幅に減らすことができる。しかし、本当に大丈夫なのですか?」
「もちろん!我が社でモニターを募集し、後ろの彼らのように実際にやってもらっていますが十分な成果をあげていますよ。安全性も問題ありません!むしろ私は現在の状況の方が不安でなりませんよ。金をわたして親を施設に捨てていく人、家族もほとんど見舞にくることはありませんから病院側も死ななければ何をしてもいいという非人道的なシステム。誰も幸せになるものはいません。機械にまかすということに人間らしさが無いと言う古い考えの人もいますが、そういう人に限って老人の下の世話がイヤだから施設に入れるといったことをする。結局機械を使ってもそれを扱うのは人間です。私達のシステムは人の幸せを考えて作っています。もちろん商売ですからお金はいただきますが、適正料金と言ってもいいんじゃないでしょうか。どうです?」
「ええ、このままの経営状態ではそのうち破綻するのは目に見えています。 いいでしょう、見積り出してください。導入することにしますよ。」
「はい、ありがとうございます。それでは契約の方を・・・・。」

その後人類の平均寿命は150歳までになった。
しかしそのほとんどはカプセルの中で暮らしている。
あなたは施設にある地下室を知っているだろうか?
そこにところ狭しと、整然と、並び、積み上げられているカプセルを。
もちろんそれは既に始まっていて、カプセルの中からネットに接続をし、自分のホームページなんかを作っている老人もいるという話だ。



わーむほーる