[北京の蝶]



「ふ、あぁ〜〜ぁ‥‥」
大きなあくびが一つ出た。

「あぁ!なんということだ!素晴らしい!」
「‥‥はい?」
「今あなたは世界を救ったのです!!」
「‥‥‥‥?」
なんだコイツ頭がオカシイのか?それとも何かの宗教か?

「あ、すいません。突然のこと驚かれたかと思いますが。あなたが世界を救った。これは本当のことで、私が頭のオカシイとかそういうことではなく。そう、実に科学的なことなのです。」
「‥‥は、はぁ‥‥?」

その男が言うには世界の全てには因果律が存在し、原因があって結果が生まれる。
そしてその原因から生まれた結果は、それ自体がまた別の何かの原因になり、そしてその原因から生まれた結果の原因は、またもう一つの結果に繋がるのだと言う。

男はたとえ話を話し出した。

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北京の郊外の街路樹に一匹の蝶が止まっていた。
葉っぱの裏側に虫が止まると言うことは、まだ雨が続くと言うことで
植物は蝶が止まっていることからそれを理解し、光合成を止めています。

雨が上がり雲の切れ間から日が差した瞬間に、蝶は羽ばたきました。
蝶は雨に打たれると死んでしまいますから、この判断は確実です。
蝶が飛び立った振動を感じたポプラの木は光合成を始めました。
その一本のポプラの木が光合成を始めたのを感じて、周りの木もそれに続きます。

いつの間にか強い陽射しを受けて北京中の植物が酸素を放っています。
この暖められた空気は上昇しながら地軸の回転の影響を受け大きな流れとなりました。
ジェット気流の発生です。

中国大陸からのジェット気流は南下しながら太平洋を渡ります。
赤道直下では気化した海水を捕らえて、アンデス山脈に出会うころには激しい気流となっています。

これがアマゾンに大量の雨を降らすのです。

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「‥‥えー‥っと、つまりあれか?北京の蝶が羽ばたいたことにより、アマゾンに雨が降る、それと同じ様に‥‥」
「そう!あなたのただ一つの「あくび」が世界を救うことになったのですよ!」
「‥‥う、うーん。なんだか信じられないですけども〜、まぁ風が吹けば桶屋が儲かるみたいなもんですかね?」
「ははは!‥‥まぁ簡単に言えばそうですね。でも先ほどのあなたのあくびが無ければ世界的にとても恐ろしいことになっていた、それは事実なのです。」

男は自分は国家の研究員でこうした因果を数学的に、そして実際の膨大なデータを入力し、現実的なモノとして完成させたのだという。
まったくもって信じられない話だったが、男は
「世界を救った報酬として少ないながらも国から賞与が出ます」
と言った。
オレは「何をそんな、あくびくらいで大げさな‥‥」と思っていたが
後日銀行の入金を見て信じられない顔をした。
ゼロの数が明らかに多い。
信じられない金額が入金されていたのだった。

オレは仕事をやめ優々自適に過ごしていた。
あの男の話が本当だったのかどうかはわからないが、
まぁ、本当だということにしておこう。
そうオレは世界を救ったヒーローなのだ。
だからこうして優雅に暮らしていられるのだ、と。

「は、はっくしょん!!!」
う、風邪引いたかな。
「あぁ、なんということだ!」
「う、うわぁ!‥‥あ、あんたあのときの?!」
驚いたことにあのときの男が、いつのまにかオレのかたわらに居たのである。

「あぁ、なんということだ、残念だ。」
「え、何?何ですか?」
「今、あなたは世界を命を掛けて救ったのだ」
「‥‥あ、もしかしてまた!?えへへ、またオレ救っちゃっ‥‥」

目の前が真っ白になったと思った瞬間真っ黒になった。

テレビからニュースが流れる
「本日正午隕石が落下するという珍しい事件が起こりました。
 大抵の隕石は大気圏突入の際空気との摩擦熱で燃え付きしまうものなのですが
 わずか数センチ四方の塊だけが燃え尽きずに地表に届いた模様です。
 しかも、更に驚きなことはその落下地点に一人の男性が居たということ
 隕石は男性の頭部を貫き、燃え尽きた、ということです。
 もちろんその男性はお亡くなりになられましたが
 彼以外の被害は一切なく、街は平和そのもの。。」

そう!隕石があなたに激突することにより新たなる因果が生まれ、それは新しい原因となり新たな結果を生み出す。
町の平和は、いや世界の平和は
あなたによって守られたのだった!

あなたのそのちょっとした行動が世界を救ってしまうのだ。
それは本当に些細なこと。



そう、例えばそのワンクリックで。



わーむほーる