「平和への戦い」



私は世界中の誰よりもこの世の平和を願った。
誰よりも、誰よりも、確固たる意志で平和を願ったのだ。
その想いは本当に強く、どんな圧倒的な力にねじ伏せられようとも、
あざけり、さげすまれ、心を凌辱されようとも
その意志だけはシンと揺らぐこと無く私の中に力強く在り続けた。

平和な楽園を築く為には、その堅固たる意志と、
人の気持ちを考えることのできる能力が必要だ。

人の気持ちを考える。
しかし、実際この言葉を吐く輩は総じてその意味を理解していない。
たとえるなら
戦争のドキュメンタリー映像を見るとしよう。
戦火にまみれ、無慈悲に、そして容赦なく殺される人々を見て
奴らはこう言う。

「かわいそうだね」

そしてそんな殺戮を実行している兵士達に向かって
奴らはこう言うのだ。

「なんてひどいことを!」

この発言はどちらも人の気持ちをなどを考えていない。
戦争の被害者の気持ちを考えるなら、その絶望的な恐怖を感じるべきだし、
兵士の気持ちを考えるというのなら、人を殺してゆく感覚をリアルに感じなければならない。
しかし、そのどちらも彼等は考えることもなく
「反対だ」「反対だ!」「戦争は反対だ!」
と狂った様に叫んでいる。
あくまで自分は第三者として、あたたかい料理とやわらかいベットと共に。

なぜだろう?
いつまでたっても平和な世界はやってこなかった。

私は行動に移すことにした。

数十年前とは違い、私のような者にも情報が自由に世界から取り出せるようになった今では
それはそう難しいことではなかった。
弱体化した政府、形だけの軍隊、隙間だらけの金融業。
数週間で国は崩壊し、私の手に落ちた。

そして世界中に居た、私と同じ、確固たる意志で平和を願う同志たちを率いて
世界を一つにする行動に出たのだ。
世界は揺れた。
戦火の火蓋が切って落とされた。
さぁ!行け、揺るぎなき意志を持つ者達よ!
行け!平和のために!
輝く未来のためにッ!!行け!行け!逝け!!

ふははははははははは!!

何人も何人も殺した。
何十人も何百人も、何千人も何万人もだ!
しかしそれは平和のため!
全ての人々が平和に暮らせる楽園のために!
私は戦った、
完膚なきまでに戦った。

あるとき、捕虜となった敵兵を私自身が尋問する機会があった。
やつは言った。
「キサマは人の命をなんだと思っているのだ!これだけの人々を殺して平和な世界など訪れるものか!この悪魔めッ!!」
私は言った。
「命。うむ、それはとてもとても大切なものだよ。それは私を含む全ての人間がそう思っていると思う‥‥ただしその命には順列がある」
「‥‥それは、俺達の命は価値がないと、そういうことか!」
「いやいやそうではないよ。全ての人は、命に順列をつけている。自分の命。それをなによりも大切に思っているんだ。私も、君もね」
「なっ!‥‥」
「そこで提案なのだが。君、ここで考えを改める気持ちはないかね?‥‥そうすれば君の命を取ることはしないよ。人を殺すなど、私は本当はしたくはないのだから」
「‥‥それはオレに裏切ってスパイになれということか?」
「まぁ、そういうことになるかな?」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥断る。」
「ほぅ」
「キサマたちの悪魔的所業に組するくらいなら、私は生きていてもしょうがない、いっそ殺せ!その覚悟は出来ているッ!」
「はっ!‥‥くはははははははは、覚悟だと?」
「な、なんだ!?なにがおかしいッ!!」
「フンッ!!‥‥それは覚悟じゃない、あきらめだ。私と君では意見が違う様だが、君はその自分の主張をあきらめるのだ。そして死に逃げる。最低だ。そんな奴はどちらにしろ‥‥いらない。これからの世界に自分の意志を貫き通せぬ者など必要ない、さっさと死ねばよいよ。」
「なっ!」

私がさっと手をあげると彼は消えた。血を流しながらこの世から消えた。
どうしてだ、どうして彼は裏切ってでも自分の意志を貫き通そうとしなかったのだろうか?
正しいと思うのならなんとしても、どんなことをしても生き延びるべきだ。
死には何も意味はない、存在が消えるだけだ。何も変わらない。
まぁ、その暗闇で見てるがいいさ。
私の意志が造り出す理想の世界を。
はは、天国などないぜ。
だって私が創るのだから、この世界に天国の様な世界を。

さぁ、行け!
揺るぎなき意志を持つ者達よ!
行け!平和のために!
輝く未来のためにッ!!行け!行け!逝け!!

そうして世界に平和が訪れましたとさ。
めでたしめでたし。

「ねぇママー、そのお話って本当のお話なのー?」
「んー、そうよー、もう何十年も前の話だけどね。この平和な世界は彼とその確固たる意志を持つ仲間たちのおかげなのよー」
「へー、そうなんだー、なんだか信じられないね。そんなことがあったなんて」

うんそうね。
でも、その人は言ったわ、

それでももしこの世界に疑惑を持ち、不満があると言うのなら。
君は行動しろ。
つらぬきとおせ。
そして、それが叶うその日まで、全力で戦え!全力で自分の命を守れ!
あきらめるな!
生きることをあきらめるな!
変えろ!
君が変えろ!
世界は君のその確固たる意志によって
いかようにも変わることができるのだから。
さぁ、行け!
揺るぎなき意志を持つ者達よ!
私すらも打倒し!
君が本当に正しく、本当に切望する世界へと
行け!

行け!

ゆけ!



わーむほーる