「扉の向こう側」



私は物書きという仕事柄、家に籠って作業していることが多い。
まぁ家と言ってもワンルームのしがないアパートなのだが。

そうやって部屋でもくもくと仕事をしていると、部屋の外の気配がある程度わかるようになってきた。
郵便配達や宅配便、チラシ配りの者や新聞の勧誘、あと隣人の通り過ぎる様子など、
なんとなくわかるのだ。

で、そんな感覚が今もしている。

今まさに、私の部屋の前に人が居る気配を感じているのだが。
少し妙な感覚だ。
その気配は私の部屋の前にたたずんでいる。
郵便配達なら郵便物をポストに入れて立ち去るだろうし、何かの勧誘ならドアをノックするだろう。
しかし、その気配の主は何もしない。
ただそこにじっとたたずんでいるのだ。

その感覚だけが妙にリアルに私に伝わっていた。

ドロボー?‥‥にしても何か行動を起こすだろうし、何も物音がしないというのも変な話だ。
いや、もしかしたら私のただの勘違いで、本当は誰もいないのかもしれない。

しかし、やはり、その居るという感覚だけはまじまじと感じとることが出来る。
息を殺して集中すれば、その息使いまで感じ取れそうな存在感がそこには在る。

私は「嫌だなぁ」という気持ちと、それが一体何なのかという「好奇心」を同時に持ってしまい、
最終的にはその「好奇心」を優先してしまった。

足音をしのばせ、玄関のドアの前まで行き、
そろりとドアののぞき穴から外に居るであろう人物を見やる。

‥‥。

一人の男がいた。
身なりのしゃんとしたごく普通の男だった。
見覚えのある顔でもない。
その男は何をするわけでもなく、ただそこに立っていたのだ。

「あの‥‥」
私は勇気を出してドア越しに声をかけた。
「‥はい?」
「あなたはそこで何をしているのですか?」

「あぁ、これはすいません。ちょっとアウトドアを満喫させてもらっています」

そう言うと男は爽やかな笑顔を見せた。

そういえば私も長い間外に出かけていないな、
私もそうだな、週末あたりにアウトドアを満喫しに行こうと思う。



「扉の向こう側」

Out door



わーむほーる