■レシピエント■



あぁ、ツイてない。
まったくもってツイてない。
オレほどツキのないやつなんて滅多にいるもんじゃないだろう。

こんなことを言うと
いや、オレの方がもっと酷いって!
とか言うヤツがいるだろうが。
俺に比べれば、ソイツは、たぶん、ずっと、マシなはずだ。

いや、もちろん俺だって自分が一番最悪だとは思ってないし、
恵まれている面もあるのだろうとは思うし、
世界にはもっと酷い境遇の人間がいることも知っている。

しかし、まぁ、それでも愚痴らせてはくれないか?
俺ってやつはまったく持ってツイてないのだ。
生まれもってツイてない野郎なのだ。

そう、つまりは体が充分な状態では生まれてこなかった。

免疫系も弱かったし。

ありがちなことに肝臓も機能不全で透析に週3日通っている。

んでまぁ通ってるっていっても
俺は生まれてこのかた歩いたことがない。

車イスだ。

筋肉も正常に発達していない。
目も生まれつき弱視で、このところさらに視力は落ちて来ている。

まぁその他もろもろあるのだか。

こんな俺だ。
苦笑いしかできやしない。

臓器移植や角膜移植、移植が成功すれば少しは回復の可能性もあるらしいが。
移植手術なんてのは臓器の提供者があってのこと
それすらかなりの数の順番待ちなのに
さらにそのドナーの臓器が自分の体と適合するかどうかで
また弾かれる。

無理無理無理。

こんなにも徹底的にツイてない俺だぜ?
そんな奇跡の様な偶然が起こるはずもない。
まぁ、いいさ、どうでもな。
どうせ残り少ない時間なのだから
いまさらそんな小さな希望にすがる気すらない。

だ、が。

そんな偶然の様な奇跡が起こった。

一人のドナーが体の全部を提供するドナー登録をしていたのだが。
その移植の適合性が俺の体と異様なほどぴったりと一致したのだった。

こんなことは非常に珍しいというか、家族間でもここまでの適合はみられないと医者は興奮して言っていた。
いや、だけど俺なんかこの先の人生どうなってもいいと思っているんで
だれか他の希望の持てる人に譲ってあげてくださいよ。
そう言ったがそういう個人の希望は通らないそうだ。

まぁ、ツイてない俺に。
ようやくツキが回ってきたとかそういうことなんだろうか?

そうして俺は移植の手術を受けた。
心臓、肝臓、そして角膜の移植手術を立て続けに受けた。
もうなんか異例中の異例らしい。

さすがの適合率だったようで。
それは俺もまさに体感として実感できた。

みるみるうちに健康な体を取り戻してゆくのだ。
いや、生まれつき健康な体と言うものを知らなかったので。
むしろ気持ち悪いくらいだった。

あはははは、ゲラゲラゲラゲラ!
これが健康と言うものなのか?
普通の人はこんなにも自由な体を持っているものなのか!
すごい!
すごいすごいすごいぞ!!
目はどこまでだって見えるし
食事がこんなにも美味しいものだったなんて!
体の奥からエネルギーが満ち満ちてくる!

まったくもって可笑しい話だか。
移植したところと関係ないところまで
健康な体を取り戻していた。
なんと俺は生まれて初めて歩いた!

この二本の足とはこういう風に使うものだったのか!
うあははははは!!
歩き出す俺を見て医者は目を丸くしていたが、
一週間後には走し出した俺を見て。

「私は初めて奇跡を見たよ」
と医学書を放り投げた。

うくくくく!!
本当になんだろう体からやる気が溢れて止まらないッ!!
今ならなんでもできる気がする。
いや、なんでもやってやるぜ!!

移植手術を受けた患者は、ときにその臓器提供者
ドナーの人格的、精神的影響を受けると言うが。

これが、そうなのかもしれない。
そうか、これが”あいつらのパワー”なのだと。
このむやみやたらと前進する力は。

通常、ドナーが誰だったのかレシピエント、移植を受ける側には知る事はできないし
知らせる事もない。

ただ、その後、俺は知る事になった。

俺の手術の前日に
一人の格闘家がリングの上で亡くなっていたことを。

いや、もちろん”そう”ではないのかもしれないが。

体感として実感できた。



「あぁ、そうか。どうりで強いはずだ、プロレスラーってやつはよ」



行け!




わーむほーる