巨人

ギシ・・ギシ・・
ボクは・・また・・大きく・・なる。

夢。
最近僕はなんだか変な夢を見ている。
それも毎晩連続で同じ夢を見るのだ、しかもその夢はその次の日にも続いていく「続きの夢」なのだ。

そこはどこか南の島の様で僕のまわりには島の住民がちょこちょこと動いている。
そう、ちょこちょこと。その島の住民はまだ文明化されていない少数民族のようなのだが、彼等の特長としてその身長がすごく小さいってコトなのだ。彼等は大体僕の半分くらいの身長だ。
だから僕はこの島では巨人として見られている。

最初の日はそんな感じの夢だった。
目を覚ました僕はちょっと苦笑した、いつも幼馴染みの里子にもチビって言われている僕。そのコンプレックスが夢に出たのかな?とたいして気にも止めなかった。

次の日また同じ夢を見る。
島の住人が小さいってのは間違いかもしれない。いや、実際は昨日の夢より彼等は小さく見えた。しかしそれは僕の主観であって、本当の所、彼等が小さくなったのではない、僕が大きくなったのだ。 僕の体は明らかに大きくなっていた。昨日まで届かなかったヤシの木の実に手が届くようになっていた。
その時は僕はこの大きな体が楽しく、今まで出来なかった色々なことをした。海に飛び込んでみたり、大きな木の上に登ってみたり。

しかし楽しいことばかりではなかった。

それから毎夜その夢を見るようになり、その度に夢の中の僕は大きく巨大になっていった。
村の住民とは言葉は通じなかったがある程度手ぶり身振りでコミニケーションはとることが出来、今や彼等の住むワラ葺きの家より大きくなった僕は、彼等の要望に答え、川の流れを変えてみたり、海を少し埋め立ててみたり、痩せた土地に木を植えてみたりした。
そうすると住民達はすごく喜んでくれた。
気付いたのだが、彼等に喜ばれるごとに僕の体は大きくなっていくようだ。
既に僕の体は近くにある「山」と同じくらいになっていた。
僕は箱庭を造っていくようにそんな作業を楽しんでいた。

ちょっとしたことだった。
僕がいつもの様にそんな作業を楽しんでいた時、ちょっと足元に注意がいってなかった。そこは海辺の苔が群生しているところで少し滑りやすくなっていたんだ。僕は足を滑らせ転んでしまったのだ。
別に転んだところで普通は僕がちょっとケガするくらいでどうってことないことだ。
だけど、今ぼくは、巨人なのだ。
「キャー!!!」
なんだか甲高い音が聞こえた。背中に何かが潰れたような感覚があった。

僕は一瞬何が起こったのか分からなかった。
立ち上がると住民の一人が潰れていた。ペチャンコだった。
声も出なかった。
村の住民は悲しみ、そして僕を怒りと恐れの目で見るようになった。
僕はもう村には近づかないことにした。
一日、一人でじっとしていることが多くなった。
それからも僕は大きく巨大化していった、住民の恐れられることでも僕の体は大きくなるようだった。
僕はもう大きくなりたくなかった。大きな自分が怖かった。

いつもの様に僕は島の隅でひっそりと暮らしていた。
ときどき村の子供たちが好奇心で見にきていたが、僕は動こうとはしなかった。
日が落ちる。夕日はとてもキレイだったが。僕の心は空虚だった。
いつもは日が落ちると目が醒めて現実の世界に戻るのだがその日は夜になっても巨人のままだった。

ポツリポツリと雨が降って来た。
黒い雲が凄い速さで島に向かって来た。
嵐が来る。

大きな竜巻が見えた。
どうやら直撃しそうな感じだ。
僕は少し考えた後、久しぶりに重い腰を上げた。
もう僕は島の端から端まで手が届く大きさだった。

島の住民は嵐に怯えていた。ワラ葺きの家はギシギシとイヤな音を立てる。雨音はだんだんと大きくなる。恐怖が村をおそった。
嵐が去った。
だけれども村は無事だった。
巨人がその大きな体で村全体を覆ってくれたのだ。
村人は巨人に感謝した。
巨人をたたえるお祭りが連日行われた。
巨人は嬉しかった。涙が流れて湖が出来た。

そして村人の喜びを受けて巨人はまた大きくなった。
だけど今度はこれでおしまいだと、巨人は気付いていた。
巨人に死期が来たのである。
巨人はそれを悟ると島から少し離れたところで海に横たわった。
空を眺めて、青色から夕日の赤に変り、星空が見えてきたとき巨人は目を閉じた。
そしてもう目を開けることはなかった。
巨人の体は死ぬと土になった。その体に草木が生えて川が流れ、動物達が生活するようになる。
そしてその上で生命の営みが繰り返されていくのだ。

目が醒める。
もう、巨人の夢は見なくなっていた。
ギシ・・
おっと急がないと遅刻しちゃうな。

「おはよー!」
おっ里子だ。
「ようっ、なんだよ里子おまえなんか縮んでないかー?」
「もう、何言ってんのよ。あんたがデカクなったんでしょ、あのチビのサトルがナマイキなのよ。」
里子がじっと俺を見上げる。
「あっ・・そうか。そういえばなんか夜、関節がギシギシ痛いんだよなーふっふっふデカクなって巨人になろうかー。」
「はぁー何言ってんのよ。それより早く行かないと遅刻しちゃうわよ!」
「おっ、おう、そうだな。」
「それじゃゴー!!」
というと里子は走り出した。
僕も後を追い走り出した。
そうか僕も大きくなるんだ。いろんな経験をして大きくなっていくんだな。
しかしなんだ。これは秘密にしておいてくれよ。
さっきさ、里子の胸元がちょっと見えてさ。
ちょっとドキドキしちゃったんだ。
里子も大きくなってるってことか・・・・・。
いや、だから秘密だって!!
絶対言うなよな!!!



わーむほーる