たとえばそうだ、あなたは「人間の心」ってのはどこにあるのだと思う?
少し昔、それは心臓にあると思われていた。そうこの臓器がなければ人間は死んでしまう、人にとって一番大事な器官だろう。だけれどもそこに心があるかと言えばそれは違うだろう、もしあるのなら、心臓を取り替えれば人間の外見は同じままで違う人になるはずである。心臓移植など当たり前に行なわれているがそんな話は聞かない。第一、今は人工心臓と言うものまである。心臓が機械なのだ。ならばその人は人ではなくロボットだと言うことになる。もちろんそんなはずは無い。
人の機械化、サイボーグ化とでも言おうか。
そう医学と科学が極度に発達したこの22世紀において人のサイボーグ化は当たり前のこととなっていた。
ふと回りを見渡して見ても数十年前までどこかに必ずいた車いすに乗った人というのを最近ではさっぱり見なくなった。別に足の機能を失しなう事故や病気が減ったわけではない。そういう人は車いすに乗ることなく高性能の義足を着けているのだ。それは本当に性能の良いもので一目ではその人が義足かどうかなんてわからないほどだ。あ、ほらあそこで警備員の仕事をしている彼もたしかそうだ。
ここで一つわかったことがある。足に「心」はないってことだ。
このサイボーク化技術はとどまることをしらず発展していきほぼ人間の全機能をカバーできるようになった。
義眼、と言えば目の模造品を目に着けるだけで、ただ見た目だけでのものだったが、今はちゃんと見える義眼がある。だから視力2.0のおじいちゃんなんてのもいる。噂では少し色をつければ暗視機能付きの義眼ってのも着けられるそうだ。
そう目にも「心」はない。
サイボーグと言う言葉を聞き慣れない人に説明しておく、サイボーグと言うのはロボットではない。
ロボットは全て機械で出来たもの、与えられた指令をこなすものであって、そこに心の存在はない。
いくら人間の様な形体をして限り無く人間の様な仕草をしてもそれは電子レンジや車と同じ機械でしかない。
サイボーグというのは先ほど言った義足や義眼の様に人間の動作を助ける機械を着けた人間のことで、体のほとんどが機械と入れ代わっても「脳」さえ残っていればそれはサイボーグ化された人間であり、心の存在する人間である。
つまりは「心」は脳にあるってことなのだろうか?
たぶんそうなのだろう僕もそう思う。
コンピューターで人間の脳の機能を模倣しようという試みは続けてるそうだが、未だそれを再現することはできないでいるらしい。
ちなみに僕はこのサイボーグ化ってのがあまり好きではい、その病気やケガとかでの機械化はしかたないと思うが。どうも親からもらった体に傷をつけるようで、いや、こう言うと古い考え方をするやつだなと思われるかもしれないが。やはり人間としてあるがままの姿で居たいと思うのだ、それが自然な姿だと思うのだが。
と、思った時に
突然、目の前にいた白衣を着た男が銃の様なものを僕に突き付けた。
目の前が真っ暗になった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
‥‥ここはどこだ?
「おや、目を覚ましたようだね。」
あれ?体を動かそうとするがどうもうまくいかない、喋ろうとするもまったく喋ることができない、目は見えてはいるが目の前の白衣の男から目をそらすことができない、正面しか見ることができないのだ。
「おやおや、驚いているのかい?脳波が乱れてるよ、まぁ脳波ってのも変な話だが。
とりあえず君には知らせておこうと思ってね。
実験は大成功だよ!
まぁ君にはまったくなんのことだかわからないだろうが
実験、そうここは研究所なんだ。何を研究するのかって?
それは君も知りたがってたことだよ
「人間の心」はどこにあるのかってことを研究してるんだ。
人間の心、それは「脳」にあるとみんな思ってた。
脳だけ残して後は全部機械にしてもそれは人間だ、間違いはない。
それでは脳を完璧に模倣した機械、つまりは機械で出来た脳を作ればそこに心は宿るのではないか?
当然の考えだ。
実際、その機械は完成した。それは完璧だった。しかしそれに心は宿ることはなかったんだ。
研究は行き詰まった。
しかし一人の天才科学者がその状況をくつがえした。
「それならばまったく逆の実験をやってみればいい、人間の脳が心だと言うのならその人間の脳を抜き取りそこに機械の脳を入れればいいのだ。そうすれば心の存在の証明ができるだろう。」
そして大成功だ!君のデータは大変興味深いまるで本物の人間の様だ!いや心が存在していたと言っていいのだろう。これで脳に心があるとは断定できなくなった。しかしこの脳だけが生身の私と脳がだけ機械の君のデータを照らし合わせ解析していけばおのずと結果はでる!」
‥‥え?
その白衣の男は一気に捲し立てると少し間を置いて言った。
「ん、で。もうすぐその結果がはじき出されるのさ、素晴らしいだろ!やっと人間の心の在り処がわかるのだよ!!わくわくするね。ん、この全身サイボーク化した体もかなり快適だし、なんともステキな気分だ。」
‥‥つまり僕は‥‥。
と、思った時に
突然、目の前にいた白衣を着た男が銃の様なものを僕に突き付けた。
目の前が真っ暗になった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
それはテレビのリモコンの様なもので。
白衣の男は電源のボタンを押したのだ。
スイッチ・オフ
‥‥
‥‥
‥‥
‥‥
オシエテクレ、
ココロハドコニ?
ボクノ
ココロ
ハ
ドコ
二?