「機械」

少し昔の話。

一人の若い科学者がいた。
変わり物だったが優秀だった。
そしてその男には恋人がいた。
男は彼女を愛していた。
美しく優しい女だったが、
死んだ。
事故だった。
男は悲しみに堕ちる。
そして悲しくて悲しくて悲しくて
男は狂って、狂って狂ってしまった。

男は研究を始めた。
狂ってしまったが男はとても優しい男だったので
世をうらやむことはなく、ただ、もう、自分のような悲しみを味合う者がいないようにと
男は研究を始めた。
「機械」を造った。

男は近くの一番高いビルの屋上で叫んだ。
「これは世界に平和をもたらす機械です!」
月の輝く夜空にその声はシンと響いた。
「これは電波を発信し人々の心に安らぎと本当の愛を届けるのです!これで戦争はなくなります!これで悲しみもなくなります!これで愛しい人を失う悲しみもなくなるのです!」
そう言うと男はその機械のスイッチを入れると
両手を広げビルのフェンスの向こう側に足を伸ばした。
男は消えた。
世界から消えた。

もちろん男は狂っていたので
その「機械」は何も起こさない。
スイッチは入っているが
何も起こらない。

しかしそののち、この「機械」を元にして
現在あなたたちが使っている携帯電話が開発されことはあまり知られてはいない。
そしてそれが沢山の人々の心と心を繋いでいることを
彼は知っているだろうか?



わーむほーる