I WATCHING TVSHOW.

僕は毎日テレビだけを見て生きている。
朝から晩までずーっとブラウン管の光をこの目に焼きつけているのだ。
別にそんなにテレビがおもしろいというわけではないが、つけているだけでなんとなく時間は過ぎていってくれる。
何もしないのならばテレビを見てればいい、そうだろ?

しかしこの僕にはちょっと変わった事情がある。
僕はこの部屋からかなり長い間出ていない。何か月か、いやもう一年は過ぎているかもしれない。
その間僕はテレビが終わって寝る時間以外ずっとテレビをつけっぱなしにしている。たまに運動不足解消のためにストレッチなどすることもあるが。そのときもテレビから目を離すことはない。
そんな暮しをしている。

何故か?

それを説明するにはまずこの部屋を説明したほうが早いのかもしれない。
この部屋には基本的にテレビしかない。内装は床がフローリング、壁がコンクリートの打ちっぱなしの簡素な作りだ、そしてココが重要なのだがこの部屋には窓がない、どこかの地下室の様だった。そこんとこはよくわからない。そして部屋のドアは重厚な創りの鉄の扉、僕はこれが開いているところを見たことがない。そしてテレビだけがそこにある。
つまり僕はココに監禁されているのだ。
食事は定期的にドアの下についている郵便受けのようなところから彼女が届けてくれる。

そう彼女だ。

数ヵ月前、いや数年前か?彼女といつもよりすこしキツイ喧嘩をした。たわいもないことだったと思う。そのころ僕はテレビなどほとんど見なかったのだが、その彼女はよく見ていて僕にテレビの話をするのだが、僕はよくわからないので適当に聞き流していたのだ、だがそれが彼女の気にさわったらしい、まえからヒステリーの強い女だとは思っていたのだが、こんなことになるとは思いもしなかった。

そう、僕がちょっと飲みすぎてアパートに帰って来きたとき、突然背後からガツンと何か固い物で殴られた。薄れゆく意識の中で彼女がこう言っていたような気がする。

「テレビはおもしろいんだよ、ねぇあなたにもわかって欲しいな。」

そして再び僕が目を覚ますと既にこの部屋につれてこられた後だった。
始めは僕もここから出ようといろいろとやってはみたのだが、すべて無駄に終わった。彼女が食事を持って来るときに騒いだり、わめいたり、なだめたり、できるかぎりやってみたのだが彼女は頑固なまでに僕の話に一言も耳をかさなかった。
時に彼女が話すこともあったがそれは一方的な会話であり、ただ自分のことだけを話していた。
彼女は完全におかしくなっていた。

そんな日々が何日も何日も続いていくと僕はだんだんどうでもよくなってきた。
僕はテレビにはまっていったのだ。
何もしなくて生きていけて毎日ただ、テレビを見て暮すのだ。これは一つの理想ではないのだろうか?
彼女もおかしくはなっているが僕の世話をしていることで幸せを感じているらしい、母性本のとでもいうのだろうか。変な話だが僕達はある意味幸せなカップルなのかもしれない。

しかし今、僕は少し困ったことになっていた。
今日の食事が届いていないのだ。
たまに一回や二回、食事が届かなくなることがあったが今度はどうやらダメみたいだ。
それはテレビが教えてくれた。
ニュース番組だった。

電車の脱線事故があったようだ。
重軽傷者8名、死亡1名の惨事だったらしい。
死亡者の名前を美人のアナウンサーがたんたんと二回繰り返した。
彼女の名前だった。

僕は別に悲しいとは思わなかったが
彼女以外にこの部屋を知っている人がいるのだろか?と少し考えた。

テレビを見ながら。



わーむほーる