世界平和


「せんせ〜なんで人殺しちゃいけないんですかぁ〜?」

静まり返る教室。
言葉を失う馬鹿な教師。
さぁ、はやく答えを言ってみろよ!
どうせ人の命は尊いものだとか、悲しむ者がいるからだとか、何者も他人の人生を終わらせる権利はないんだよとか、そーゆーくだらない建て前の偽善的な意味の無い言葉だけの答えでお茶を濁すんだろ?
ほら?いいんだよ答えなんていらないんだ。もっとうろたえろよ!問題児が出てきて困ったなぁってそんな顔をしてオレを楽しませろ!

しかし返って来た答えは予想外のものだった。
「・・・あぁ、タカハシ。おまえそんな簡単なこともわかってないのか?ていうかニュースとか見てないだろ?」
えっ・・・?なんだ。違う、オレが期待していたのはこんな反応じゃない。
なんなんだ?そういえばクラスの他の奴らもなんでこんなに静かなんだ?
数人などちらりとオレを見てなにか引きつったような笑いをした。
オレはわけがわからないままその教師の話を聞くことになった。

「うん、まぁそうだなぁ。いいきっかけだし道徳の授業ってカンジで話ておこうか。まずなんで人を殺してはいけないかってことだが、別にいけないことじゃない。ただめんどくさいからしないだけなんだ。」
はっ?なに?めんどくさいから・・・なにを言ってるんだ。教師がそんなこと言っていいのか?
オレは何か言おうとしたがそれを遮るように話は続いていく。

「まずタカハシおまえが誰かを殺したとしよう。そーするとだ。殺したその相手には家族がいて彼を愛するのもがいる、そういう人がオマエを許すと思うか?いや許さない。捕まえてオマエが彼に与えた痛みを自分の手で与えてやりたい殺してしまいたい、とそう思うはずだ。そうしてタカハシ、オマエは殺される。しかしタカハシを愛するもの・・・いるかどうかわからんが・・はその報復を黙って見過ごしてくれはずはない第三者からみれば復讐であろうが報復であろうがただの人殺しに違いない。そうやっていくとどんどん殺人のキャッチボールは続いていき、どちらかが完全の滅びるまで終わらない。まぁそれの大きなものが戦争だったり、ちょっと昔の話だったりすると「先祖の恨みの弔い合戦」とかになるんだが。

 そんなことばっかやってると殺し合いばかりになってしまって非常ーにめんどくさいんだよ。だから私たちは法律を作った。無駄な殺し合いをしないためだ。そうでもないと日々誰かに命を狙われるんじゃないかとビクビクとおっかなびっくり生きていかなきゃならないからね。

 しかしその法律も最近はあまり有効ではない部分がでてきた。
 殺人者に対してあまいのだ。
 被害者の家族は被疑者が十分な報復を受け無いので、まったくもってすっきりしない。
 しかし衝動でその被疑者を殺すわけもいかず、ただただ無念を胸に我慢しなければいけない。

  その結果、少年といった立場を利用した未成年者の犯罪や、一人殺して死刑になるのなら何人殺してもかまわないだろう?と言ったバカヤローが増えてきてしまったんだよ。
 まったくイヤな世の中さ、なぁタカハシ、オマエも殺したいと思っているやつが一人や二人いるだろう?そう、いっそ殺してしまいたい。こんな人口の増えた世界で世の中にいらないヤツが一人死のうがどうでもいいことだ。」

 ふぅ、と教師はため息をつき窓の外の空を眺める。
 オレはわけがわからなかった、コイツいったい何を言ってるんだ。
 違う、いつもと違うぞ。

「しかぁーし!」
教師はオレの目の前にやって来て大声でいう。
そして一転やさしくささやくように、
「しかし、君は殺さない。。それは知っているからだ殺人者の逃亡生活を。いつ警察に捕まるかと逃げ惑う、そんな生活はまっぴらごめんだ。大嫌いな奴のために自分の人生が台無しになるのは意味がない。
 そしてそう思っているのは君だけじゃない、この世界のほとんどの人間が大なり小なりそんな考えを胸に潜めている。いつもにこやかなあの角のおばぁちゃんだってそうかもしれない。

 そこでだ。もし今、全ての人に「今日一日は一人だけなら殺しても罪に問われない」って法律があったらどうだろう?まぁみんなはもう知ってるな?タカハシィ〜おまえもっとニュースとか新聞とか見ないとダメだぞ〜
 そんな法律が先週可決された。」

はっ・・・?
えっとそれって・・・えっ!?可決された?
決まったの?
突然のことでオレ思考は停止し、何を言っていいのかわからなかった。
「そーゆーことで今からみんなに、というか国民全員にプレゼントがある。」
といってその教師はなにか重そうな鞄を教壇の上に置いた。
ガコン、とても重量感のある音がした。教師がジッパーを開けると中から黒い塊が覗いた。
拳銃だった。
「はーい、とうとうそんな日が明日にせまってきました。というわけでみんなの力を平等にするための拳銃です。女の子でも簡単に使えるから安心しなさい。だけども弾は一発だけしか入っていないので気を付けて慎重に使ってください。そしてちょっと特殊な仕掛けがあって今はまだ使えません。明日、というか今日の深夜0時から翌日の0時までしか使えないようになってます。もちろんそれ以降は使えないし回収されます。今日はこれを配ったら学校は終わりなので明日に備えて寝るなり、準備をおこたらないようにしてくださいね。

 ん?タカハシ。わかったか?つまりはそーゆーことだ。
おまえも殺したいやつがいたら明日がんばって殺してこい!
でも気を付けろよ、オマエが殺してやりたいと思っているように、オマエのことが憎くて憎くて堪らない奴も世の中にはいるからな。殺されないようにも気を付けなくっちゃな。
 まぁタカハシもみんなも明日はがんばって殺してこいよ!
と、おっとそういう私を狙ってるやつもいるかもしれないな。
まぁいい、明日は無礼講だ。
どんな奴にもその権利はあるんだ。
だからがんばれ!」

そうしてオレは拳銃を片手にウチに帰った。
何故かウチには誰もいなかった。
深夜の0時を過ぎる。
パン!
一発目の銃声が少し遠いところでした。
背後に視線を感じた。



わーむほーる