「晴れ男と雨女」



なんだかどこに行っても雨に会ってしまうヤツのことを
「雨男だ」
とか言ったりするが、
 オレは晴れ男だ。
オレが外に出るときは必ず、確実に晴れる。
100%の確率で晴れる。
そんな、でも100%ってことはないでしょ?
ってアンタは言うかもしれないが、
それは確実だ。
だってオレは一度も外に出たことがないからだ。
いわゆる引きこもりってヤツなのかな?
だからオレは一度も、今までの人生で一度たりとも、雨に降られたことは無い。
‥‥だけどそれじゃぁ雨男じゃないかもしれなけど、晴れ男でもないんじゃあないのか?
だって?バカだなぁ、これから先オレがたった一度外に出ることがあるとしよう。
その日が晴れだったらいいのだ。
雨だったら出かけなかったらいい。
たった一日晴れの日に出かければ、オレは100%の晴れ男ってことになるだろ?
そうじゃないか?‥なぁ?

 私は晴れ男だ。
80年の人生の中で大事なときはもちろん小学生の遠足やら運動会、初めてのデートから、旅行、ちょっとした散歩のときまで一体全体雨に降られたという記憶がこれっぽっちもない。
もちろん雨の降る日もあるのだが、そんな日は部屋で読書をしているときや
今のように車で移動しているときくらいだ。
雨で困ったということがまったく全然すっかり無いのだ。

だが私は慎重な性格なので鞄の底にはいつも折り畳みの傘を入れている。
これは確か小学生の時におばあちゃんに買ってもらったものだ。
そして今までその傘は一度も使ったことがなかった。
もうその当時のおばあちゃんの年齢を越えてしまったというのにだ。

ということで、それじゃこの傘がちょっぴり不憫なのでちょっとした思いつきを実行することにした。

 私は雨女だ。
10年の人生の中で大事なときはもちろん遠足やら運動会、気になる男の子との班行動、家族旅行やちょっとしたコンビニの帰りなんかでまで驚くほど雨に降られる。
だからもちろん傘は持ち歩く様にしてるのだけど。
今日は絶対大丈夫、天気予報も晴れって言ってたし、空に雲もほとんどない!
って出かけたら案の定雨に降られて困ってしまうことが多過ぎる!?
何?なんかの呪いなのってくらいに雨に降られまくっちゃってるのだ。
‥‥と、いうわけで今もまた、そんな雨に降られ捲ってシャッターの閉まったお店の前で雨宿りしてるってわけ。
というか全然やみそうにないんですけどーー。
もーー!!

とか言ってたらなにやら高級そうな車が私の前をちょっと通り過ぎた所で止まり、
中から身なりのキチンとした晴れやかな顔の老紳士が私の方に歩いて来た。

そうして私に一本の折り畳み傘を差し出したのだ。
え?突然のことに驚いたが。
変な人とかではないようだ。
話を聞くと私と正反対で”晴れ男”なんだそうだ。
だからこの傘は使ってなかったんだ、よかったら使ってほしいと。
そういうことだった。
なるほど、どうりで古ぼけた傘だ。
デザインもなんだか今時でない。
返さなくってもいいってことだったので、ありがたく使わせてもらうとしよう。
そしてそれは意外と手入れされていたのか、とくに壊れてる様子も無かった。
私はその傘を広げると、雨の中家路に付いた。

 オレは晴れ男だ。
晴れ男のはずだったのにーー!!
オレはついに、ついに外に出ることになった。
初めての外、初めての青空!
のはずだったのにーー!!
‥‥雨。
それもものすっごい雨じゃねーか!!
‥‥はぁ、まぁしかたないか。
これがオレの初仕事なんだしな。
まずはこの女の子を雨に濡れない様に家まで送り届けること‥‥か。

‥‥ってオイオイてめーこのガキそんなにオレを振り回すな!
オメーも濡れるだろーが、ちゃんと真っ直ぐ差せよなバカヤロウッ!!

「ん?‥‥今なんか聞こえたような‥‥」



完。



わーむほーる