四角い箱


「世界は四角い箱だ!その箱が気に入らないのなら抜け出してみればいい。」
深夜のラジオ番組のDJが言っていた。
その時はあまり意味がわからなかったが何かその言葉に不思議な魅力を感じていた。

そのとき僕は中学生で、回りの全てに不満を抱いていた。
いや、というか自分が不安でならなかったのだ。
周りと違う自分に。
友達が騒いでいるアイドルやテレビドラマにはまったく興味がわいてこなかったし、学校の先生が言う正しい答えとはいつも違う答えが僕の中にあった。
僕はオカシイ人間じゃないのか?
そう考えるととても怖くなり僕はだんだんと自分の考えを口に出すことはなくなっていった。
そしてそういう、人とは違ったオカシナ考えはできるだけしないようにと。
僕は正しい人間になるためにひっそりと身を潜めたのだ。

テスト勉強していたときのことだ。
ふと耳したラジオ番組のDJが喋っていた。
驚いた、僕が考えたいたオカシナ考えを彼は知ってるんじゃないかと思ったくらいだ。
でもそんな話を彼はしごく当り前に、そしておもしろおかしく話している。
僕は嬉しくなった。
そして彼の紹介する音楽、小説、映画なども僕が知らない新しい世界のものだったのだ。
それをきっかけに僕はどんどんと新しいモノを見て聞いて体感していった。
そうだ、彼の言う通り僕は四角い箱の中にいた。中学生の僕が知っている世界などそれは一部に過ぎない、たとえそのときはそれが全てにしか見えなくとも。
箱の中で叫んでも無駄だ。箱の中を変えることに意味はない。本当に変えたい変わりたいと思うのなら僕自身が箱の外に一歩踏み出せばよかったのだ。

彼のラジオは欠かさず聞いていたが僕が大学進学を決めたころにプツリと彼の声を聞かなくなった。
噂によると彼は失踪したらしく、どこにも誰にも彼から連絡はなかったそうだ。
最初はがっくりきたりもしたが、大丈夫だった。
もう中学生のころの僕じゃない、彼からはいろんなことを学んだしこれからも箱の外に出る勇気さえもっていればやっていける、そう確信していた。

僕の世界はどんどんと広がっていく。
大学生になったときもそうだった。今まで授業をサボるなんてのはとても悪いことだと思っていたし高校生のころなどはテストの話題しか話してない友達なんてのも当たり前だと思っていたし、それが常識だと思っていたのに。その常識が全て崩された。自由だったのだ。学校に来ない奴もいたが、別にそれは悪いことでもなんでもないのだ、ただ選択しただけだ。ただ昔より選択の幅が増えただけのこと。いくら正しい常識を持っていてもそれがとても狭いものであるのならばそれはなんの意味も持たない。

ただそれだけのことをなかなか理解することが出来ないのが現実なのだ。
もちろん全ての人がそれに気付くわけでもなく、とてつもなく広く自由な世界が広がっているのに頑なまでに自分の理解できる範囲の四角い箱の中に留まろうとする人もいる。
そんな人は自分の箱の外にいる人達をオカシイ人だと後ろ指を差すが気にすることはない。
あなたはあなたなのだ。もし不安ならばそこに留まればいい。不満ならばその足を一歩踏み出せばいい。
世界はまだまだ広い。

そう思った僕は大学卒業と同時に世界を放浪の旅に出た。
そこでもやはり僕の常識はがらがらと崩れ、新たな世界が広がっていった。
様々な文化、風習。今まで学んできたことがまったく役にたたなかったり、逆に今まで役に立たないと思っていたことがとても重要なことだったりと。
箱を抜け出した、と思っていたがその場所もまた少し大きな四角い箱だったってことだ。

世界を旅していろんな知識、経験を持ち。
僕は本当に自由になれた気がした。
しかし、ふと思った。
僕は始め小さな箱の中から一歩飛びだし外の世界に出た。
しかしそこもまた四角い箱の中。
ならば今ここにいる僕もまだ壁の見えない大きな箱の中にいるのだろうか?
世界中の知識を手に入れても、それでもまだ足りないのだろうか?
どこまで行けば本当の箱の外に出られるのだろうか。
それともこれは無限の入れ子の箱なのか。
・・・・・・・・。
僕の脳裏に閃光が走る、パズルの全てのピースが組み合わさった。
知恵の輪が解けるようにそれは突然わかったのだ。
あのラジオのDJが消えたわけでもこれでわかった。
よし、いいぞ!最高だ!!
全てが僕に注ぎ込む感触。

長々と書いてしまったがこれを読んでる君にはうまく説明できないのだ、残念ながら。
「箱の中」に居る者は「箱の外」に居る者のことを理解することはできない。
でもこれだけは言っておこう、
「世界はつまんなくなんかない!それでももしあなたが世の中に絶望すると言うのなら、一歩踏み出してみればいいのだ四角い箱の外へ、ただそれだけのことをするか、しないか、それであなたの世界は激変する。怖いのならずっとそこに居ればいい、それも選択の一つだろう。でも僕は待っている、あなたがココまでやってくるのを。」

それでは、しばらく会えないかもしれませんが、またいずれ。



わーむほーる