ろくでなし
3つのサイコロを茶碗の中に投げ入れてその出目の数で役をつくるギャンブル「ちんちろりん」、茶碗からサイコロが転げ落ちてしまうとそれはチョンポで負けが決定となることから「一も六も無い、勝負にすらなってない駄目人間」を「六で無し(ろくでなし)」と言う


ダイスを転がせ!

あなたは12面ダイスと言うのを知っているだろうか?
ダイスというのはもちろんサイコロのことで、通常のサイコロは一から六までの数字があるが、この12面ダイスは面が12面あってそこに一から十二までの数字が刻印されているものだ。あまり普段見かけるものではないがボードゲームなどに親しんでいる者たちにとってはお馴染みのものである。

そして俺は毎日この12面ダイスを一日一回だけ転がしている。
別に何かゲームをしているわけではないし俺の意思でやってるわけでもない。
ただそういう規則だからやっているのだ。
俺がダイスを転がすと看守はその数字をメモする。
看守、そうここはそういうところ、つまりは刑務所なのだ。
私は鉄格子の中の人間、つまりは囚人てわけだ。
まぁそこそこの罪で服役中なわけだが、そんなことはどうでもいい。
なぜダイスを降らなければいけないのか?
それについての説明は一切なかった。
一度看守に尋ねてみたことがあったが、彼もただ職務をこなしているだけで何の意味があるかんなんてのは知らないとのことだった。まぁ統計学とかなんかそんな学者さんの調査じゃねぇの?とは言っていたが。
俺もそんなもんかとたいして気にも止めなかったが、囚人たちの噂では少し違うことが囁かれていた。「三回連続1が出ると出所できる」とか「三回連続で12がでると死刑になる」とか「7が出た日はラッキー」とかそんなくだらない噂話。
そう、くだらないのだが。。俺は昨日と一昨日12の目を出している、俺が死刑?。。ありえない話でもないのが俺の罪状なわけで。。。いやいやそんなことはないだろう。あ、そう言えば隣の監房の奴が三日連続で1が出たとか言っていた。そうだよ噂が本当ならアイツは今日出所できるはずじゃないか。そんな気配はないし、ふぅ、ただの噂さ!でもちょっとドキドキしてしまう自分が情けないぜ。はは、はははっ!

私は豚小屋の管理人。
つまりはこの刑務所の所長をやっているわけなのだが。
ちょっといいことを思い付き実行している。
ここに入れられている囚人どもはとことんツキのない奴らばかりだ。まず生まれもって最悪の家庭環境に育っており犯罪を犯すしかなくなった運のなさ。そして多儲けできるはずだったその犯罪もカネを掴む前にあっさりつかまってしまうあたりがバカとしか言いようがない。そんなどうしようもないヤロウどもがここに見事にそろっている。
彼らはどうしてここにいるのか?
それは簡単なこと「運」がないのだ。
犯罪者であれ運のいいやつはのうのうと世間で平和に暮らしている。仮にそんなやつがこの刑務所に入ってきてもあっさり保釈金を払ったり無罪を証明したりしてすぐにここを出ていくのだ。 つまりここに居るやつはたいがいに「運」とか「ツキ」に見放された者達なのだ。

そこでだ。
ここのヤツラがギャンブルに手を染めたとしよう。
結果はわかるだろう?
当たるわけがない、儲かるわけがない、だって運もツキもまったくない集団なのだから。彼らは自ら知らず知らずのうちに運のない選択をしているのである。
そこでこの12面ダイスだ。
なんで普通のサイコロじゃないのだって?
バカだなぁ、「競馬」は12ゲートあるのだよ。

うふふ、そう私は新しい競馬の当て方を開発したのだ。
彼らの出す「運のない数字」
逆を言えばその数字にあてはまらなかった数字というのは「運のある数字」なのである。
私はその数字を目安に馬券を買えばいいのだ。
うふふふ、いやこれがよく当たるのだ。笑いがとまらないってやつだな。うふふ。

さて、今週の統計を見て見ようか。
ふんふん12は駄目駄目だな。異様に集中してるなぁコイツなんて3日連続じゃないか。えっと少ない数字は、っと。1か。ん?でも一人だけ1を出してるやつがいるな、それも3日連続でか。。。まぁいい、たまにいるんだ、コイツはたぶん運のいいやつだ。そのうちなんらかの理由で出所するだろう、そんな奴だ。ん、今週は1を中心に流してみるか。

と背後にいきなり気配を感じた。
「へぇあのサイコロでこんなことやってたんだ。」
看守の制服を着たそいつの顔は見たことのない顔だった。
いや、見たことはあった鉄格子の向こう側に。
そいつはニヤリと笑うと俺の首筋にナイフを当ててスッと引いた。

本日、南内海刑務所で一名の脱獄者が出たとのこと。
犯人は脱獄する際に3人を殺害している。
まず隣の監房の囚人をロープの様なもので殺し、それを見て慌てて駆けよって来た看守から鍵を奪い、命を奪い、制服を奪って所長室に到着。所長室で彼の余生とギャンブルで儲けたヘソクリを奪って、所長ご自慢の高級車に乗ってゆうゆうと逃走した。

警察の懸命の捜査にもかかわらず、3ヵ月経った今もその行方は要として知れない。



わーむほーる