ディエロン

START to End 3

「えっと、なんだか状況がよく飲み込めないんだけど。いったいどうなってるわけ?」
小泉愛子はこの世界のお姫様の様なビロードのドレスで奥の階段の上に立っていた。
「あら?伸哉君?何寝てんのよ、何かあったの?」
階段から駆け下りる彼女、ドレスの裾がフワリと揺れる。
「何かじゃないよ、こっちは死ぬような思いしてったてのに、愛子さんこそ何やってたのさ?」
「いや何って・・・お姫様ってのは人質にされて勇者の助けを待つってのが定石でしょ?」
「・・・・えらく年増のお姫様ですね。」
えいっ、言うが早いか愛子はゴチンと伸哉の頭ぶった。
「いてー、こっちは怪我人だよー。」
「で、どういうわけ。キルラがここ「ディエロン」の主だったわけ?そこに倒れてるけど?」

「私が説明するよ、ていうかおぼえているかな小泉?」
「えっ?・・・‥・・・・。」
彼女は一瞬の沈黙の後、声を上げて言った。
「あー!!!李くん!?えーなんでー?」
「や、ども久しぶり。」
「何、あなたもディエロンを調べていたわけなの?」
「まあ、そういうことになるね。」
それから李は簡単にことのあらましを伝えた。
「という、わけで時間がない。何かいいアイディアはないかい?解析はまだ半分ほどしか終わっていないんだ。ここが崩れ落ちるのはもう後数十分ってとこだろう。」
「うわっそれってすごくヤバイじゃん。」
伸哉は言ったが李も何もいい考えがうかばなかった。このままここが「終わって」しまえば自動的に現世界に帰れるのかもしれないが、そのまま「死」んでしまう可能性の方がかなり高い確率であるのだ。何か何か一発逆転の発想がないものか・・・・。

彼女は少し考えていた様だったが、しばらくしてすっと口を開いた。
「どうにかなるよ。たぶん。」
「「えっ?」」
伸哉と李は驚いたように愛子を見たのだった。

「ここって彼の妄想世界なわけなんでしょ?ここから全てを元の世界に戻すことは本人自身にもできないことなの、入るのは簡単でも出るのは難しい。だから直接ここから戻るのは無理なことなの。間に中継地点がいるのよ、夢と夢は繋がっているって話聞いたことない?妄想から妄想も繋がっているんだよ、正確には繋がりやすいってことかな?」

「??で、なんでそんなこと知ってるわけ?もしそれが本当だとして妄想ってどこに?」
「それも解決できるわよ、ちょっと李くん私の右目を見てくれない。」
「右目?小泉、何なんだいいったい。」
李は愛子の右目を見る。目の白い部分、そして黒い瞳の部分、そこはそう、黒く光っていてよくみると李を含むこの景色を映し出している、彼が動けばその瞳の中の彼も動く。しかし何か違和感を感じた。その映り込んだ景色のことだ。
・・・・違う!これはここの景色じゃない、そこは明らかにここではない場所だった。瞳の中の彼は何故か草原にたたずみこちらを見ている。今、彼はその瞳に映る小さな世界に見入っていた。じっと見ているとその彼の背後から一人の少女がやってくる。だんだんと近づいてくるその少女はどこか見覚えのある感じだった。

「こんにちは李くん。」
少女の声が聞こえ背中をつっつかれた。李はおどろいて振り返る。
振り返るとそこはとても美しい夏の草原だった。
「どう、おどろいた?ここが私の世界よ。」
尻餅をついて草のなかに座り込む李。
「もしかして小泉なのか?」
「ええ、まあ妄想世界のことなんだからちょっと若いかんじで、いいでしょ?」
と少女はくるりとスカートをひるがえしスカートの端をちょこっと持ち上げておじぎをして言った。
「あらためまして、ようこそ私の世界へ。」
「はー、なんだ、なんだ、結局「ディエロン」みたいな世界を君も持っていたってことなのかい?」
二人は草原に座り込み、青い空と青い海を眺める。
「私もこうみえても小さいころはかなりキツイめにあってたんだよ、今の子供達はゲームとかインターネットとかって逃避出来る別世界みたいなものがあるから、わりともってるんだと思うんだけど。私達の子供のころってさあんまりそう言うのなかったじゃない、だから私は本をたくさん読んだの、でもそれでも読んでいる間はいいけど終われば元の辛い世界が待っている、だから私は自分だけの自分の安心できる場所をここにつくったんだ。」
とそう言って少女は自分の頭を指差す。
「あっそうだ。伸哉くんもはやく連れてこなきゃ、んじゃちょっと待っててね」
「そうだ、忘れてたよ。どうも驚くことが多すぎて頭がなんだかしびれているよ。」

少女はスッと消えた。

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