ディエロン

In The Room

目を開けるとそこには半裸の男や女が楽しげに暮らす楽園が見えた。
まだ、頭がぼんやりしていて、しばらくその景色を眺めていた。彼等は動かない、当然のことだった。その楽園は天井に描かれた絵だったのだから。ミケランジェロとか、そういうのにはあまり詳しくないが中世のヨーロッパを思わせる天井画だ。

だんだん意識がはっきりしてきた。そうだ!

小泉愛子は事態のあまりの急変に対処できずにうろたえる。
ここはどうやらどこか誰かの部屋のようだ。白塗りの壁にゴシック調のきらびやかな装飾をほどこされた家具の数々、今、私がいるベットもレースのカーテンなどついていて、まるでお姫様にでもなった気分だ。
壁際に一つ窓があった。私は外を覗き見る。
・・・・私をさらって来たのは、あのキルラなのだろうか?
そうだとすると彼はいったい何者なのだ。ただたぶんこの世界においてはかなりの地位のあるものだろう・・・。
この窓から見える景色。
この世界の全てが見渡せる、ココはたぶんかなり大きな城なのだ。それもドラキュラ伯爵でもすんで居そうな、暗い影を落とす城だ。
いったい何が起きているのか私にはさっぱりわからない。
そういえば小早川君はどうしたのだろう、この世界の秘密を何か掴んだのだろうか・・・それさえも何もわからない状態だ。
「はぁ、どうしよう?」
と彼女がため息をついた時、重く大きい扉がギィと音を立て開いたのだった。

それは影だった。
扉は少しだけ開いてそこで止まった。人の気配はしたのだが、人は入って来なかった。
かわりにその影がその隙間からにじみ出してきたのだ。
私はその闇に恐怖を感じた。夏の夜に聞く怪談でもスプラッター映画に感じる恐怖でもない、なにか根源的な恐怖だった。
その影はどろりと扉の向こうの闇から床下を這うようにゆっくりと進んでくる、とてもゆっくりとしかし確実に、その闇は大きくこの部屋に広がってくる。
白い部屋が黒く塗りつぶされていく。
私は一歩も動けずその浸食を見つめていた。体が芯から凍り付くようだった。冷や汗すらでない。私の体の、その機能が全て止まっているような感覚だった。
しかし、目だけはその光景を眺めていた。
少しの慨視感をおぼえる。
抑えつけられた記憶。
黒い闇は部屋を全て覆った。
私は強く目を閉じる。見たくない記憶。
まぶたの裏で光りがスパークする。
きらきらと花火のように、輝く満天の星空のように

私はそのあと一人の人物の記憶を体験した。
同じ世界に生きる者の記憶。
同じ世界のはずなのに、その瞳はまったく違う世界を映し出す。
そして自らの選択。
‥‥・・・自らの世界の創造。

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