ディエロン

in out

小泉愛子はとりあえずその「デイエロン」と書かれたディスクをもう一度パソコンに差し込んで見る。そんなにパソコンに詳しいわけではないのだけれど多少は使いこなせる、最近の人ならまあそれは常識だろう。しかしそうだからこそ「ディエロン」と言う妄想が広がったのかもしれない。この妄想はネットを通してあっというまに世界に広がったのだ。

彼女の指がマウスをクリックする。画面上のディスクのフォルダが開いた。何かのビデオ映像のようだ。彼女はスタートボタンを押そうとしたがそれよりも早く自動で始まった。
モニターに映像用のウインドウが開く。真っ黒な画面の中心に青い光りが灯る。音楽はなかったが何か聞こえるような気がする。そう、ときどき感じる音、あまりにも静寂な空間で感じる無音の音楽だ。
これは何なんだろう?彼女は思っていた。これがディエロンと何か関係があるのだろうか?
映像は続く。中心の青い光りがだんだんと大きくこちらに迫ってくる。そしてその青の点は宇宙に浮かぶ地球の姿となった。とても低い音を立ててその地球の画像は回っていた、ゆっくりとゆっくりと回る。それを見ている私の視点はどんどんとその青い星に吸い込まれていく。画面いっぱいに映像が広がる。そしてついには目の前がその映し出される地球の大地でいっぱいになった。目の前に大地がが広がる。
私はなんだかぼんやりとそれを見ていた。ここは森の中、どこか遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。少し風が吹いていたがそれはとても心地よかった。ふと私の手が大地にふれる。

大地にふれる?!

ちょっと待ってよ!何?私はたしかにココにいる。緑の森が広がるこの大地に。見れば見るほど分からなくなってきた、私がさっきまで小早川君の部屋にいたことがまるでウソなのかのように。

私の中の常識が音を立てて崩れ落ちてくる。自分の感覚に自信が持てなかった。これは妄想なのか、それともさっきまでの生活が嘘なのか。そんなことさえもがとても不確かなものに感じられる。
彼女はなんとなくほっぺをつねってみた。痛覚はある、そして目の前のふざけた妄想も消えることはなかった。

「・・・なんなのよコレ。」
彼女はへたりと座りこんだ。空を見上げると、そこは突き抜けるような青空だった。ただ一つおかしなことと言えば、まるで漫画にでもでてきそうな想像上の動物「ドラゴン」が優雅に空を飛んでいることだけだった。
そうして、彼女は半ば意識的に気を失った。

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