ディエロン

インストール・マイセルフ

小早川伸哉は家に帰って来た。彼は今18歳。
とあるマンションの最上階にを全て借り切って暮らしている。そしてその中の一室はコンピュータールームになっており彼の生活資金はここで作られている。彼はここでパソコンのソフトを開発しネット上で販売しているのだ。だから彼は自由気ままな生活を楽しんでいる。だから小泉愛子のところでやっている仕事も人の心理に興味があったから始めただけで本業と言うわけでもないのだ。

ブン
伸哉はパソコンの電源を入れた。モニターが三台同時に青い光りを放つ。彼が一つキーを押すとそれぞれが別々に作業を始めた。パソコンソフト関連の報告、仕事依頼のメール、ネット仲間からの話題、様々な情報がモニターに現われる。
そして妄想「ディエロン」の情報。伸哉は様々な所に広告を出していた「ディエロンの情報求む」たったこれだけのことで一日に何百通ものメールや手紙が彼の所にやってくる。彼はそれを選別しデータとしてコンピューター上にまとめ上げているのだ。伸哉は興奮していた。このモニター上の世界はたいへん興味深い、こういう妄想は神話などからの話を元に構成されることが多い。なかでも暗黒神話などが人気モノだ。しかしこの「ディエロン」はまったく新しい世界を想像している、それも躁鬱病の人達が話すチンケな妄想世界ではなく。なにか根底にしっかりしたものを持つ、まるで本当にあるかのような世界感を作り出しているのだ。
「ふふふ、今日も沢山来てるみたいだな、あっちの世界の住人から。」
一つのメールにお目が止まった。
ハンドルネームはサキとなってる。

「私は一ヵ月ほど前より世間で話題になっている妄想世界「ディエロン」にジャックインすることに成功しました。たぶんご存じだとは思いますがこの妄想はただの妄想ではなく複数の人間により創られ、そして共有されるという非常に不可思議なものです。そしてその発進原はこのコンピューターネット上にあるらしいのです。しかし私はもうこの世界に片足を入れてしまっています。普通の人間が「ディエロン」世界が見えなく干渉することができないのと同じ様にこっちの世界に足を踏み入れた者も現実世界に干渉することが困難になってくるのです。そちらではたぶん精神科の門をたたく人が増えていることでしょう。私は少し深い所まで来てしまったようです。お願いしますこの世界の謎を解いてください。
 サキより
 小早川伸哉様へ」

内容はいつもの通りだった。しかし伸哉が驚いたのは最後の所だ
「何でコイツ僕の名前がわかったんだ?」
伸哉は仕事上は別の名前を使っている、本名から自宅を調べたりするネットストーカーなどから守るためだ。だからどう追跡しようが彼の名前はわかるはずがないのだ。
おかしい。どこでこの名前を見つけられたのか。
ん?なんだ?そのサキからのメールには最後に暗号のような意味の無い文字の羅列が数行並んでいた。さっそく暗号解読のソフトにかけて見る。少し時間がかかった。かなり珍しいタイプの暗号だったようだ。昔、世界大戦のときに使われたタイプの暗号だった。
解読された文字は見慣れた英文字の羅列だった。いわゆるホームページのアドレスだった。
ふ〜んわざわざこんな変な暗号を掛けてあるんだから、それなりの情報はあるんでしょうね、っと。 伸哉はマウスをカチリを操りそのページに跳ぶ。

モニターにページの画像が現われた。
「なんだ、やけに荒い画像だな。」
伸哉はそのページをさっと眺める。なんのページなのかよくわからない、中央になんだか水晶のような物体が数個くるりくるりと回っているムービーがある。
なんだこりゃ?他のページへのリンクもなく、そこにはそのムービーが延々とループされ流され続けている。くるりくるりとその水晶は回る。その動きはそうあれだ、太陽を中心に回る惑星の動きに似ていた。その動きは時にそのスピードを変えてある一定のリズムを作っていた。
たん、たたんたん。
ん?どこからか音が聞こえる。伸哉は耳を澄ます。
たん、たたんたん。
あれ?僕の足元から音が聞こえる。
たん、たたんたたんたたんたたん。

伸哉は一瞬息を止めた。まったく感覚がなかった。その音を出してるのは彼自身の足だった。
彼が気付いたのにも関わらず彼の足はリズムを刻み続ける。
「おいおい、なんだよこりゃ。くそっ止まらない!」
頭を上げ画面を見ると水晶の動きはだんだんスピードを増していっていた。それとともに彼の足も激しくリズムを刻む。
「なんかヤなかんじだな。しかたない負けたみたいで嫌だけど。」

そうつぶやくと彼はパソコンの電源を落とした。
部屋が明るさを少し落とす。
「ふう、いったい何なんだい。あのムービーが催眠効果を出していたのかな。そんなことができるのかなぁ?サブリミナル効果とかも実際はあまり効果ないんだしな。まあいいかデータはちゃんと取ってあるから後で解析しよっと。」
そういうと彼はパソコンからフロッピーディスクを取りだしそのラベルに「ディエロンムービー」と書いて机に置いた。
と、その時だった。
部屋の明りが消えた。停電?それは違った、部屋の窓から見える町の景色は奇麗に光りを放っていた。おいおい何だ今度はオカルトかぁ?と彼が思った通りになった。
彼の背後に急に青い光りがともり。部屋の中をぼんやりと照らした。そしてその中をユラリと人影のようなものが揺らめいた。

「誰だ!」

彼が振り返りそう叫ぶがその相手は答えなかった。
そこにいたのはまるでRPGなんかのゲームとかに出て来る中世時代のお姫さまのようだった。そして彼女はまるでカーテンに映る映画みたいにその姿をゆらりゆらりと揺らめかしてていたのだった。
伸哉はただただ驚くだけだった。もしこれが立体映像だとしてもそれはすごい技術だ。しかしとてもそうとは思えなかった。ちょっと僕疲れてるのかな、彼はそう思ったりもしたのだった。

GO3