チャット年齢


ヴン
夜の11時を過ぎると私はパソコンを起動し
気の会う仲間の集まるチャットに入る。

「チャット」、インターネットとかやってる人ならもちろん知っているだろうが一応説明しておくと、ネット上で行う文章による会議みたいなものである。
まぁ会議とまでは行かないが、日々の雑談から相談ごとまでいろいろな会話が交わされる。

そんなチャットの魅力はその人物の姿が見えないことであり、年齢、ときには性別までもがわからない人達と話す楽しさではないだろうか。
その姿が見えない特性から結構普段は言えない自分をさらけ出して、本音の話ができることが私はとても嬉しい。
ここはそんな仲間の集まる場所なのである。

しかしここ最近ちょっとヤな空気が漂っているのだ。

「あ、またマシンガンさんが来た。はぁ・・」
マシンガンとはいわゆるハンドルネームでありもちろん本名などはわからない。
この彼がちょっと空気の読めない人で、初めてやって来た時も初対面でいきなり年齢を聞いてきたり、男なの?女なの?と聞いて、「男だ。」と言うと直ぐに消えていったり。その後も人を不愉快にさせる質問を浴びせかけて、こちらがだまっていると「無視した!」と怒って出て行ったりして仲間内ではかなりの嫌われものだった。

まぁ、いきなりこちらが怒るものなんだし、楽しい雰囲気を壊したくないので。やんわりと注意するくらいですましていた。
そうチャットは年齢も何もわからないのだ。
もしかするとこの人は小学生なのかもしれないし、パソコン使い初めの初心者かもしれないのだ。

逆の話で「リュウ」さんという人がいたのだが、この人が幅広い知識をもった楽しい人で、私など密かに尊敬していたのだが、あるときリュウさんが
「あ、ゴメンちょっと夏休みの宿題があるのでまたね。」
と言ったのだ。
「え?リュウさん夏休みの宿題って。え、すいませんリュウさんていくつなんです?」
と私が質問すると。
リュウさんは小学3年生だと、あっさり答えた。
私は社会人の人だと思っていたのでかなりびっくりしたものだった。

そんなこともあってマシンガンさんのことも
しばらくは様子を見ようということでほうっておいたのだが・・。

彼が初めて来てからもう一週間はたったが、相変らずの彼だった。
そしてその態度に仲間の一人が遂にキレて、壮絶な言い争いになった。しかしそれでもマシンガンさんの方は自分のどこが悪いのかさっぱりわかっていない様子で、みんなもうほとほと呆れ返ってしまった。

そんなことがあって、もう彼は来ないだろうと思っていたのだが、それからもたびたび彼はやってきて場を混乱させては謝りもせず消えていく。

私も仲間もそろそろどうにかしなきゃなぁ、と思っていたところ、テレビからニュースが流れてきた。
時の内閣総理大臣が死んだということだった。

この総理というのが政党に奉り上げられた形だけの総理で、政治力もなければカリスマ性もない、そのくせ大事な会合では数々の暴言失言で新聞を賑わすダメ総理だったのだ。
死んで悲しむ者もそういないだろう、彼が死んだところでまた直ぐに代わりの者が奉り上げられるだけのことだ、政治にはなんの影響もない。

「あぁ、そういえばこの総理ってマシンガンさんみたいだなぁ、もしかして本当に彼が総理だったりしてー。」
とチャットで冗談まじりに言っていたのだが
それからパタリと彼はチャットに来なくなった。
「もしかして・・・。」
「まさかねぇ・・・?」

まぁそんなこともあったが、彼がいなくなってまた楽しいチャットが戻ってきた。
おっともうこんな時間だ。
それじゃ私はもう落ちます。
明日は幼稚園の遠足なのです、お母さんお弁当作るの忘れないでねー。



わーむほーる