青い

青い空は青いままで
空の青は、美しい海に映りこみ、その海もまた青になる。

俺は今、南の島へバカンスに来ている。ここはまだそれほど観光化されていない穴場だ。
島に一軒だけある宿に泊まり。ゆっくりと休み、昼ごろはこの美しい海岸を散歩する。
とても美しい所だ、ここは。
殺伐とした仕事場から離れ、ここに来ると本当に癒される気がする。

今日もまた島をふらりふらりと歩いていく
町の住民はとても穏やかな生活をして暮らしている。男は漁に出て女は農作業をしている、しかしそんな仕事のほとんどは午前中に終わり、あとはただただのんびりと暮らしているのだ。
いつかはこんな島で暮らしてみたいものだと本気で思う。

少し町の外れまで来たところの一人の老婆がいる露店があった。
老婆は俺を見ると言った。
「おや、旅の方かね。めずらしいもんだね、どうだいオマエさん土産物にこんなのはどうかね?」
と老婆は俺にある物を差し出した。
老婆は言う。
「人魚じゃよ。」

それはミイラだった、人魚のミイラだ。
それも10センチほどの小さなミイラ、上半身が人間の様で、下半身が魚のあれだ。
ははぁ、と俺は思った。
こういうのはよくあるものだ、大抵のものが猿の赤ん坊と魚の死骸を繋ぎ合わせて造った観光土産なのだ。
しかしまあ俺も話には聞いてたが実際見るのは初めてで、わりとこういうグロテクスなものは好きな方なもので、買ってみることにした。値段も彼等にすれば高価なところだが、俺の国の値段にすればジュース一本分ってところだ。
とりあえず半額に値切ってそれを買った、老婆はそれでも十分ボッタくったらしく満面の笑みを浮かべていた。

そうしてそれを腰にぶらさげて、またふらふらと散歩を続ける
港に来て、ぼんやりと海と空を眺めていた。
と、向こうからこの町の子供たちがわいわいと走ってきていた。本当に純真な感じの子供達だ。そして彼等が俺のわきをすり抜けていくとき少しぶつかった、ホンの少し。
あっ、
と思った。腰に付けていた人魚のミイラがぽとりと落ちて、コロコロ転がり、海に落ちた。
ポシャン。
あ〜せっかくのおもしろいお土産が〜
と落ちたそれを眺めていた。結構ここらは深いみたいだ。透明度の高い海なので、落ちてゆく様がまだ見える。
と、突然それはぶくぶくと泡を出し始めた。それもちょっと普通じゃないない勢いで泡を出し始めた。ぶくぶく、ぶくぶく。まるでそこだけ海が沸騰しているようにも見える。俺はなにがなんだかわからずじっとその光景をみていた。
ガボン!
大きな泡が大きな音を立てて弾けた。同時に水をピシャッとはじく音がした。
なんなんだ一体、と俺はその海を見る。
もう。泡はおさまっていた。ゆらりと少し大きな魚の影が見える。
魚?
魚に腕はあったろうか?
それはまるで、まるで・・・・。
一瞬、音が止まり、そして海の中からイルカが飛び出すように何かが飛び跳ねた。
それは女の子だった、少し普通じゃない気はしたけれど、やっぱり普通じゃなかった。
銀色の髪をたなびかせた女の子の足はない、そこは魚のそれで、そう人魚って言葉がよく似合う・・・。
飛び上がった彼女はニッコリと笑うと、また海の中に潜っていき、それっきり。
俺は尻もちをついたまま、しばらく呆然と海を見ていた。
・・・こんなこともあるかもしれないか・・。

俺はまた自分の国に帰って仕事を始める。
だけどいつかあの島で暮すのも悪くはないかと思っている。
青い海の島で。



わーむほーる