-AMAGAMI-

雨神
〜あまがみ〜



その男は雨が好きだった。
雨の日が好きだとかそういう話ではない。
雨の音が、雨の粒が、雨のもたらす空気が、雨そのものが大好きだった。
愛していると言ってもよいだろう。
そう、実際男は雨に恋をし、雨を愛おしく思っていた。

切なくも苦しいこの想い、おぉ雨よ!
私の愛を受け止めてはくれないだろうか。
一目もはばからず男は愛の言葉を雨に捧げた。

そのあまりに直実な男を前にして雨はとても、とても恥ずかしがり。
隠れてしまった。
雨が隠れてしまった。

雨が隠れたのならそれは晴れである。
ずっと、ずっと雨は隠れていた。
なのでずっと、ずっと晴れの日は続いた。
大地は干上がり、作物は枯れ果てた。

これは困ったことだ、と村人たちは男につめよった。
どうにかしてくれ、これじゃあみんな死んでしまう。
男はわかった、とそう言った。

そうして男は踊りだした。
それはとても陽気に、愉快に、面白く。
それは本当に楽しそうで、まわりで様子を見ていた村人たちも踊りだすほどだった。
子供たちが踊り、男も、女も、じじいもばばぁも踊った。
太鼓を叩いた。笛を鳴らした。
リズムにのって軽やかなステップ。
それはなにか祭りの様で遥か彼方遠くまで響いた。

なんぞ、なんぞ、楽しげなことがありんすか?
と、どこぞに隠れていたのか雨のヤツがひょっこりと顔を出す。

ふん、ふんふん♪
おほほほほい♪

とても愉快なその踊りに雨のヤツも上機嫌。

ふん、ふん♪
おほほい♪
おほほほほほい♪

そうやって雨のダンスが始まった!

おぉ、雨だ!
雨が降ったぞぉ!
村人たちは大喜び!
久方ぶりの雨に大地はうるおった。
男も大喜びでその雨を受け止めた。
愛する雨を受け止めた。
愛いするがあまり、受け止め過ぎて。
溺れて死んだ。
愛に溺れて死んだのさ。

それからその村では毎年その時期になると愉快な祭りが行われる。

「雨ごい祭り」と言うそうな。



恋に焦がれて



雨降らす大御神。

わーむほーる