と、その時だった。観客のボルテージが最高になったその時だ!
ルーシーは左右の腕を体の後ろでクロスさせた。
そしてその二の腕をサッ、と上げた。左右の手には始めにホログラフィーの二人が持っていたものと同じ、二丁の黒い銃だった。
曲は間奏にに入る。いつの間にかリアルタイムで音を鳴らしていたギタリストやパーカッションのプレイヤーの姿がなかった。全てがシーケンサーの自動演奏に切り替わっていた。今ステージ上にいるのは二丁の銃をかまえる彼だけだった。
「これからが ホントの ショーの 始まりだ。」
と彼が言ったと同時に彼の指は引き金を引いた。
ダンッ!!
カチリと私の頭の中のボタンが押された。目の前にせまる弾丸がスローモーションで見える。しかしそれは確実にこの私を狙っていたのだ。熱をもったその弾丸はゆっくりと回転しながら私の眉間めがけてまっすぐにそして正確に飛んでくる。
「よけなければ!!」
私は私に命令を下す。私の脳は確実にその命令をキャッチする。しかし私の体は弾丸のスピードよりもさらにスローな動きしかできない。それはつまりほとんど動くことができないということだ。
目だけはせまりくるそれをはっきりと認識しているというのに。
「さやか!!ルーシーが銃を打ったの!私に向かって。こっちに飛んでくるよ、どうしよう!」
頭の中で声が聞こえた、則子の声だ!
えっ違うよ、則子。弾丸は私の方に向かってきてるんだよ。
「ねェ、これあたったら死ぬのかなぁ、なんだかすごくゆっくりなんだけど。」
だから違うって、ほら見てごらんよ、もう一つの弾丸は向こうに飛んでいっちゃってるし、そしてもう一つは確実に私の方に向かってきてるよ。ねぇ則子ってば。
「えっさやか?何?」
ガッ
「ルーシーが私に向かって銃を‥‥。」
また頭の中に声が侵入してきた。高原則子とは違う別の声だ。
ナニ?あなた誰?
「えっ‥‥何‥‥。」
ガッ
「ルーシーは私を狙っているんだ。」
また別の声が頭の中に響く。
何?何なの。まるでこの会場中の人の全ての意識がランダムに私の頭の中に入っては消えていく。
そしてその人たち全てが自分がルーシーに打たれてるのだと思っている。
違う!打たれているのは私だ!!だって目の前にこうして、ほら、見なさいよあの弾丸をまっすぐ私の方に‥。
はっと気付く、皆が私の視覚に侵入しているのではないか? 見ているのは私一人ではなく、会場内の全てが私の瞳を通して映像を見ている。そして私の中にその意識が混濁されていくのではないだろうか!?
いや、もしかすると見ているのは私ではないかもしれない、この私も則子たちと同じように誰かの視覚の映像を見ているだけかもしれない!それならば私の体は?私の瞳は何を見ているの?
ダン!
スローモーションの解除。
弾丸は視覚で捕える暇もなく、私の、いや、この視覚を共有する全ての人間の眉間をつらぬいた。
ガクン
誰かが背中を押した。リアルな皮膚感覚。私は少し前のめりに倒れそうになる。
「誰?!」
私は体勢を立てなおし、後ろをふり返る。
白い世界
テレビの赤と緑と青色の光が全て発光し、白の光を造りだす、そんなかんじの白。
その真っ白な空間に私は浮かんでいた。
上も下も無い。ただただ広がる空間。
その何もない所に、一つだけコンサート会場の座席が一つだけあった。一つだけだ。そこにはやっぱり一人だけ人がいた。
もちろん
私の目の前にいる
その人間は
もちろん
私
自身だった。