生命の星(第9回)
〜始動〜

暗い会場内には明りはない、ただ非常出口の緑の表示だけが光りを放つ。しかし会場内の誰もがそんな所は見ていない。ルーシーが現われるであろうステージをじっと見つめていた。
会場が一瞬、全くの静寂につつまれる。
と、その瞬間ステージの後ろにある巨大スクリーンが白く発光した。強く白い光。

パッ

光りと影のコンストラストが視覚を刺激する。
そしてまた闇。しかし、光りの残像の点滅がまぶたの裏に起こる。瞬きをする度にチカチカと光りの粒が点滅する。まるでその点滅に合わしたかのようにスピーカーからシーケンスの電子音が流れ始めた。会場全体から歓声とも深いため息ともとれるような声が湧いた。
目の中の点滅がだんだんと薄らいできたとき弦楽器ののびやかなメロディが流れ始めた。いつもとはバージョンが違うようだが彼のデビュー曲「ヘブンズ・ゲイト」だ。
鈴原さやかは思う。もうこの曲は何回も聞いている。そう、もう飽きるほどに。しかし今、私は体の芯から震えるような感動を感じている。
観客が静かにユレだす。ドラムの音が入る。バスドラムの低く空気を震わすリズムと観客のユレがユニゾンを起こす。
だんだんと視界が狭まっていく前方のステージしか見えない。視野狭窄。徹夜なんかで目の前のシャーペンで書いた文字の紙と芯から崩れ落ちた炭素のクズのミクロの世界を見入ってしまう感覚。とても狭い所を見てるのにそこにまるで無限の世界があるような錯覚。
今ここがどこなのかと聞かれても誰も答えることはできないだろう。
ただ音を耳が拾い、体を震わせている。

パッ

ステージの右手に青いスポットが当たる。声にならない叫びが会場を埋め尽くす。
「ルーシー・テラ・ナティー」だ。
彼はステージの端から3歩進んで止まりステージ左手の方に目をやった。
その間にも曲はさまざまに音を変化させその数を増やし絡み合いスピードを増していく。
ルーシーはどこかアジアの民族衣装のようなものを身にまとっていた。
そして彼は右手をスッと上げステージの左端を指差した。

パッ

ステージの左端に緑のスポットが当たる。また一人、人が現われる。彼はどこか民族衣装のようなものを身にまとった、ルーシーだった。
「ルーシーが二人!?」
鈴原さやかはステージの両端に一人ずついるルーシーに困惑を気持ちを抑えきれない。これは何なの?考える暇も無く、二人のルーシーは腰に手をあて黒い塊を手にとり、お互いに向かい合う自分自身に向けて黒い拳銃をかまえ、引き金に指を掛け狙いを定めている。
「な・・に?」
もう何がなんだか分からなかった。二人は引き金を引いた。

バン!

左右からサラウンドで聞こえる銃声。まるで私の両耳から二つの弾丸が侵入し頭の中で錯烈したように私は思った。
「ルーシーはどうなったの?!」緑の光りと青の光りに照らされている彼等はこちらを見てニヤリと笑うと足元からスゥーとその姿が消えていった。これは・・・
「ホログラフィ!そうなんだ!すごい!分からなかった」
さやかが気ずいたときには左右のスポットは消えステージ中央に白いスポットに照らされたルーシーがスタンドマイクの前に立っていた。

「やあ、いっしょにどこにいこうか?」

透き通るような冷たい声が響きわたる。
そして会場を震わせていた音の波の中に彼の歌声が混じりあう。
私は頭の中が真っ白になりまぶたを閉じることが出来なかった。
脳がなんだかジンジンとしびれてくるようで、私はいきすぎた興奮を感じていた。

第十話へ続く

あ〜大丈夫?
頭イタクなったら寝てね