生命の星(第6回)
〜前夜〜

全国32ヵ所を回ったルーシーのコンサートツアーも明日が最終日だ。東京からで始まったこのツアーは東京で最後をしめくくる。
ちゃくちゃくと完成にむかう計画、すべてはこの最後のコンサートのための準備にすぎない。ルーシーは思う。これでやっと僕の考える理想の世界ができあがる。完全なる世界。無駄な悲劇、意味の無い時間。幸せの感覚、本当に欲しかったもの。自由、一人ではない自由。自分を知ってほしいということ、覗かないでほしい心の奥。知りたくもない人の心を教えてほしいと願うこと。それらを知らずに死んでしまうこと。頭の中で渦を巻く。

「さあナティ、いよいよ明日だね。」
自宅のマンションにむかう車の中でルーシーはつぶやく。ナティは答える。
「どうなんだろうな、それでうまくいけるのだろうか、オレたちはつかむことができるのか?」
「できるよ絶対!僕らがうまくやっていけてるのが何よりの証拠だよ。」
「そうだな、どんな人も基本的な所は変わらないからな、どんなに心が濁った奴も、どんなバカな奴も・・・やるしかないか。」
「準備は完璧だよ。サブシステムも完成してるし、トラブルの可能性はないね。」
自慢げにルーシーは言った。ナティはアクセルを踏み込む。
「ははははっ、いい気分だ!」
ルーシー・テラ・ナティーの車は夜の町を走る。大きな丸い月がその上で輝いている。しかしまだ正確な満月ではない、明日のラストコンサートが完全なる満月である。月の光はどんなに町の光が強くなろうともそれに負けることのない光を、力を放っている。

「月が奇麗だねェ、昔からそうだった、月の大きな夜はなにか不思議な力が湧いてくる気がするんだ。そう思わない?ねぇ千里さん?」
ルーシー始めて千里に話しかけることをした。普段ルーシーはナティ以外と話しはしない。それはナティの担当だからだ。ちらりとバックミラーで後部座席を見る。高村千里は返事はしなかった、後部座席で目を閉じていた。肩にはルーシーのコートが掛けてある。
「ちょっと睡眠薬の量が多かったかな?まあいいや2時間もすれば起きるだろう、そのころにはこちらの準備も終わるだろうからね。」

「ここは・・・。」
なんだか頭がぼんやりする。千里は髪をかきあげ少し頭を振って考える。そうだ今日は明日のリハーサルで会場に言って各チェックをすませたあとナティと少し話して・・おかしい?そこからの記憶がない。それよりもここはどこなの?スタジオ?何故誰もいないの。んんっまだ頭がすっきりしない。 ふうっ千里は息を吐き目を閉じた。
ガラス越しにその光景を覗いていたルーシーは高村千里が目をつぶるのを確認するとシーケンサーのスタートボタンを押した。
パン!
千里の目の裏側が発光し白い光の残像が残る。ふぁんと耳に音が揺れる。
「何!?」
彼女は目を開けた。おかしい景色がない。目は確かに開けたと思った。しかし目の前には暗い闇。その中心に白い光。そして音、音が渦のようにうねりこちらにせまってくる。音は確かに耳で感知しているのだが光の集合体として目で知覚されている。白い渦がうねる、色が付気始めた。黄、赤、紫、色が混ざり会う所からまた新しい色が生まれまた別の渦となり放射状に発射され耳をかすめ後ろに流れる。宝石のような透明の光、青、緑。
なんなのこれは幻覚?彼女は始めこの光景に驚きを感じた。しかしだんだん体が光の渦のリズムをつかみ始めるとしだいに筋肉が弛緩していく体の芯がなんだか熱い。気持ちいい。渦はどんどん大きくなる。彼女はその光の一つ一つを眺める一つの光は隣の光と絡み合いメロディを作り出している。ああっ彼女は声を上げる歓喜の声だ。その声は光となり迫ってくる渦と絡み会いなめまかしやかなメロディをつむぎ上げていく。すべての光が複雑に絡み合いリズムを作っているのが分かった。心臓の音が高鳴る。どくん、どくん、どくん、どくん。次第に光のリズムと心臓の音は同調を始める。千里はエクスタシーを感じていた。今まで感じたことの無い、まったく別の種類の快感だった。
「繋がっている。」
千里は思った。理由はない、何とどう繋がっているを説明することもできない。だがしかし確実に繋がっているのだ。これはまるで・・・。天国というものがあるとするならまさにこれがそうだと千里は思った。涙が頬を伝って手の甲に落ちた。
音がした。涙の音が震えた。目の前にはもう闇は微塵もないただ光で埋め尽くされている。そこに何か形が作られていく、ぼんやりと見えてきた。人の形をしていた。さらに形がはっきりしてくる、それはそれ自体が白い光を放っていた。女だ。裸の女の姿だった。千里は目を凝らす。その女は直立した状態で腕を少し開け、手の平をこちら側に開いていた。目は閉じている。千里は思った。
「この人を私は知っている。」
輪郭がはっきりと現われる。そっとその光の女が目を開ける。
わかった!!この女は、
私だ!
その瞬間光は光量を増し目の前が見えなくなる。
音が消えた。
暗闇が広がる。
その中にぽつんと椅子が一つある。女の人が座っている。黒のジャケットに黒のタイトスカート、長めの髪、すごく幸せそうな顔をしている。もちろんあの女の人が誰だか分かっている。
私だ。
瞬間前の私。
そうして私はさっきまでの私を下方に見ている。浮かんでるどんどん浮かんでいく。さっきまでの私はどんどん小さくなっていく。
私は喜びを感じた。
パン!

「成功だなルーシー。」
「うん上場だねナティ。」
ルーシーのプライベートスタジオで千里は意識を失っていた。

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はいはい
ラストももうすぐのようなかんじですよ
ではどうぞ