生命の星(第4回)
〜お話し2〜

パパだ。今日もお酒を飲んで帰ってきた。大人は大変だとパパは言う。ストレスというものがあるんだそうだ。こんなときパパは怖い、ママを大きな声で怒鳴ったり、たたいたりする。僕はママとおフロに入る。ママの体には青いあざがいくつもあるキズになっている所もあってお湯に入るときつらそうな顔をする。
だから僕はパパが嫌いだったし、それをただだまって心の中に静かに、何かを溜めているママのこともなんだか好きになれなかった。
「シンイチ、ちょっとあっちの部屋にいってなさい。」
ママは言った。パパはイヤな目で僕を見る、なんで子供なんて作っちまったんだろ、めんどくせえ、こいつだけでも大変なのによ。声にはださない。僕は泣きたくなるが、泣くとすべてのことに負ける気がしたので我慢した。逃げ出したい。どこに?僕はあまりにも幼い、どうすればいいの、怖い。誰が教えてくれるのか、時間は果てしなく長い。
「だから言ってるでしょ!!。」
「なにぃ!くちごたえすんな!。」
ドアのむこうから大きなそして心臓にひびく声が聞こえる。
嫌な予感がする。
いつもは静かなママまでもが大きな声でわめいている。いやだ。やめて。僕は頭から布団をかぶり震える。
二人の喧嘩はどんどんエスカレートしていくようだったが僕はもうそこにいることやめた。さっきもってきた読みかけの絵本を開き、お話しの中に入っていく、ルーシーとナティの冒険だ。ふふふふ、がんばれ、二人はいつでも一緒だ。どんなときも。
ドン!ガタン!ガラガラッ!
激しい大きな音が現実のアパートの一室でした。そして、ウソのような静寂。なんだか様子が変だ。耳を澄ます。なんだかよく聞こえる、とても小さな音までも。震える音と荒い息、どくりどくりと心臓の音、そして流れ落ちる液体の音。僕はなんだかとても冷静に考えていた。
これは悲しいことなんだろうけどチャンスなんじゃないのだろうか、そうだ、そうだろ?
「そうだ、ここからオマエのいやオレたちの新しい人生が始まるんだ。」
頭の中で声が聞こえる。その声の主は僕の体を使ってパパとママがいる部屋のドアを開けた。
二人は部屋の隅と隅にいた。ナイフをもって冷蔵庫のあるほうの壁で震えているパパ、その瞳はどこか遠くを見てるようででも本当はどこも見ていないそんな目。赤い液体でカーペットを染めているママ、動かない、小さな虫が眼球に止まるがママは瞬きもしない。彼、僕の体を使う彼はパパからナイフを取り上げるとパパの喉元にそっとあててすっ、と引いた。パパもママといっしょにカーペットを染める。ナイフを再びパパの手に握らせ僕は、いや彼は警察に電話をかけ怯えた子供の声で状況の説明をした。

最後の一滴が尽きるまでの間僕は考える。彼はいったい誰?
視線の端にあの絵本が見える。僕は唇の端を少し歪めて笑う。
「ああわかったよ、ナティだね、君は、ルーシーと一つになったナティなんだろ。」
「・・・・。」
彼はなにも言わなかったが、僕にはわかっている。そうだ、彼がナティで僕は僕はルーシーなのだ。二人で一人。楽しい気持ちを取り戻す旅に出るんだ。そうだ、そうなんだ。そして僕は気を失う。

一週間が経った。

警察はパパがママを殺して自殺したと考えた。そして僕は遠い親戚の老夫婦にあずけられることになった。
「ちょっとは寂しい気持ちもあるけれど、大丈夫僕には友達ができたんだからね、ナティ。」
「おう、オレたちはいつまでもいっしょだぜ、ルーシー。」
二人は同時に笑顔をつくった。
そうなにも不安なんかない。そして僕は知っている、あの絵本の最後の言葉を。

「ルーシーとナティは楽しい気持ちを取り戻し、いつまでも平和に暮らしていくのです。」
「ルーシーとナティは楽しい気持ちを取り戻し、いつまでも平和に暮らしていくのです。」
「ルーシーとナティは楽しい気持ちを取り戻し、いつまでも平和に暮らしていくのです。」
「ルーシーとナティは楽しい気持ちを取り戻し、いつまでも平和に暮らしていくのです。」

僕らの話しもきっとそうなる、いやしてみせるよ

第5回に続く

ダーク?
ハッピー?
さあてどうなるんでしょね
つづく