[50センチ]


私は魔法使いになりたい。
そして空飛ぶ魔法を使いたい。
でも、それは大空高く舞い上がるような、そんな大それたものでなくていい。
少しだけでいいのだ。
地面からほんの50センチほど浮かぶことができたらそれでいい。
ふわりと浮かべればそれでいいのだ。

私の彼は背が高い。
それはもしかしたら私の身長が低いからかもしれないが。
だからいつも私は彼を見上げて話す。
正直、首が痛い。
身長差は50センチくらいだろうか?
50センチの山頂を私は見上げるのだ。
そこはいったいどんな世界?
私の見ている世界とは違うのだろうか。

「ってゆーか、そんなにすたすた歩かないでよ!私とあんたじゃ歩幅違うんだからね!」
「あーごめんごめん。それではゆっくり歩きましょうか、お嬢さん。」
「そう!紳士はレディーの気を使うものなのよ!さぁ爺や車を出しなさい!」
「おおせのままに、って執事かよ!」
「おほほほほほ!」
「もーなんだかなぁ。ん、なんだ首どうかした?」
「あぁん?どうかしたじゃないわよ、あんたのせいよ!全てはみんなあんたが悪い!つーか身長高すぎだっつーの!ちょっとは分けろっ、たまには私が見下ろしてみたいっつーーのーー!!」
「‥‥ほほぅ、そういうことならば、こうすればいいんじゃない?」

そういうと彼は魔法を掛けた
そうして私は50センチと少し浮かび上がる

「どうですかお嬢様?山頂の景色のほどは?」
「‥‥うん。うむなかなかのものじゃな。」

まぁ本当のところは魔法なんかじゃなく、
彼が私を両手で抱えて上に上げただけなんだけどね。

「つーかこれ「高い高い」されてる子供みたいで恥ずかしいんですけどーー。ねぇ、ちょっと聞いてる?え?ちょっと何っ!?」
「おふふふ、気付くのが遅かったようだな、もうキサマは逃げられないぜ!」

そういうと彼は私を抱えたまま唇を重ねた。
「もがっ!もっ!‥‥‥‥。」

頬が熱い、心臓が高鳴る。
今度は本当に魔法に掛かってしまったようだ。
私の心が50センチ上空に浮かび上がる。



わーむほーる