「君の居た昨日、僕の見る明日」の既刊情報&感想
著者 榊一郎 レーベル 富士見ファンタジア文庫

表紙画像のリンク先はbk1です。

君の居た昨日、僕の見る明日 1 Starting bell
タイトル 君の居た昨日、僕の見る明日1 STARTING BELL
初版 2004/8/25
ISBN 4-8291-1639-0
感想 榊一郎が満を持して送り出す長編+短編の新シリーズ「キミボク」の長編版第1巻です。
ファンタジーとしてそれほど目新しいものではありません。異世界召喚モノの一種でしょう。 現実になじめずに「此処では無いどこかへ」行きたいと思っていた主人公が、 いざ「どこか」へ来てしまうと、今度は現実へ戻りたいと思ってしまうという展開も、 もうハートフルファンタジーでは使い古されてしまった感があります。
でもやっぱり、榊一郎は上手いです。 そういう古臭ささえも、この作者の手に掛かると必然的な魅力になってしまうのです。 私にとって榊一郎作品の魅力はなんと言っても、その作品世界を形作っている必然性です。 ファンタジーですから、ウソであり、作り話であり、ある意味現実逃避でもあるのですが、 ウソを使ってでも語りたい世界があり、伝えたいものがある、そのことが明確に分かります。 「使い古した設定?でも本当に使い古されているかな? もっと書けることが見落とされているんじゃないかな?」 榊一郎はそう言っているように見えます。
このシリーズが売れるかどうか、なかなか微妙なところです。 常識をなぎ倒すような破壊的な面白さはないですし、 書き下ろし長編+連載短編というかつてのファンタジア文庫のヒットパターンとはいえ、 今のファンタジア文庫レーベルに往年のパワーはありません。 でも、「榊一郎作品なら、まずこれを読め」という作品になるかもしれない、そういう期待を持たせてくれます。(2004/9/5)
君の居た昨日、僕の見る明日 2 Fake heart
タイトル 君の居た昨日、僕の見る明日2 FAKE HEART
初版 2005/1/25
ISBN 4-8291-1684-6
感想 最初はアグニエシカがヒロインのドラゴンマガジン連載分が2冊目になると思っていたのですが、 連載でネレイドが出てきて、「え〜と?」と思っているうちに2冊目、 つまりこの巻が書き下ろしで出て、それがネレイド登場編となりました。 すると時系列的にはアグニエシカよりネレイドの方が先に登場する訳ですね。 連載と書き下ろしが並行して進むと、こういうところがややこしいです。(笑)
ネタは古いです。簡単にいうとロボットが人間になれるかというのが今回のテーマです。 しかしそれがこの作者の手に掛かると 「自分にあてはめるとどうだろう?」と改めて考えさせられるハートフル・ファンタジーになってしまうんですね。 相変わらず上手いなぁ、榊一郎。これまで最高とまでは言えないですが、高いレベルを保っています。 やっぱり生き残る作家は、伝えたいものと伝える技量を持っています。
ネレイドは連載では既にボケキャラになってますが、 登場時はこんなシリアスだったんですか・・・・と思ったけど、やっぱり最初からボケてますね、はい。合掌。(-人-)(2005/1/31)
君の居た昨日、僕の見る明日 3 And Today You Standing
タイトル 君の居た昨日、僕の見る明日3 And Today You Standing
初版 2005/7/25
ISBN 4-8291-1739-7
感想 ドラマガ連載開始時は鋭い目付きの少女として登場したアグニエシカ。 連載が進むとともにどんどん目が大きく丸っこくなりました。 この3巻の表紙を見たときは「誰よこれ?」と思ってしまったのは秘密です。
1巻通じてのクライマックスがなかったり、各話でのクライマックスも弱かったりでインパクトは薄いですが、 心理描写は相変わらず上手いです。 基本的にはトラウマ語りなのですが、作品世界全体を覆うちょっと生ぬるい雰囲気が独特です。 ただ生ぬるいんじゃなくて、この先、今の状況が変ってしまう可能性が高いという微妙な緊張感があるんですよね。 榊一郎さん作品は今のところ外れがないので、この先の展開に期待しています。
あと、鈴乃宮学園ってアニメ版「うる星やつら」の友引高校を思い出しますね。 古風な木造校舎のところとか、爆音とともに吹き飛んでも次のシーンでは平気な顔をして立っているところとか、 都合よく校舎の構造が変わったりするところとか。 今考えると、あの校舎が爆発するという表現はとても斬新だったと思います。今では洒落になりませんが。(2005/7/24)
君の居た昨日、僕の見る明日 4 Round−about Runners
タイトル 君の居た昨日、僕の見る明日4 Round−about Runners
初版 2006/7/25
ISBN 4-8291-1841-5
感想 3巻の時から、つまり連載当初からこの4巻の面白さがあったら、このシリーズ、売れたんじゃないかな?
学園、日常、本物と偽物、そして物語とは何なのかを考えさせられる力作だと思います。 優樹がなんでこんなにモテるのか解せないですが (あるいは鈴乃宮学園内にまともな男子が優樹しかいないという設定がご都合主義っぽいというか)、 それを除けばとても強固なメッセージを持っている作品です。
本作の「鈴乃宮学園」は「偽物の学校」であり、非日常的な隔離された舞台です。 そしてキャラたちは「学園ごっこ」を行ない、 それを完遂した時に「鈴乃宮学園」が終わることが示唆される訳ですが、 うーん、この「鈴乃宮学園」の役割が明らかによくある学園+ファンタジーのライトノベルとは違いますよね。 日常の舞台、安住の地としての学園ではなく、 通過していくべきステップ、個々人の中で失われるべき楽園としての学園です。 そしてある意味学園に逃げ込んだキャラたちが、 学園生活を終わらせる決断をして卒業していくことによって学園の存在意義を創り出すという構造は、 学園ものの1つの理想形を示しているのではないでしょうか。
個人的には「学園異能」よりこちらの方がファンタジー+学園の物語として、 今後の可能性を持っていると思います。(2006/7/27)
君の居た昨日、僕の見る明日 5 Graduation Ceremony
タイトル 君の居た昨日、僕の見る明日5 Graduation Ceremony
初版 2007/4/25
ISBN 978-4-8291-1903-7
感想 メタ学園小説完結編。 外部からの圧力ではなく、学園内部からの自主的な卒業という形の方がより良かったとは思いますが、かなり綺麗な形で完結しました。 生徒を集めて来て学園ごっこをするというメタ作品ではありましたが、 「学校」「学園」というものに対しては意外なまでに真摯な態度を取った、非常にまっとうな学園モノです。 学園を舞台にしたライトノベルは数多かれど、「学園」そのものをこれだけしっかり、しかも肯定的に描いたライトノベルって少ないと思います。
恐らくこのシリーズは最短で5巻、人気が出ればもっと延ばす、という前提で始まったのでしょう。 書き下ろしが少年である優樹視点、ドラゴンマガジン誌連載が少女であるアグニ視点というすっごい野心的な試みでした。 ところが非常に残念なことに、その試みは文庫本収録にあたってアグニの登場が遅れるという欠点へと繋がることになりました。 雑誌連載は書き下ろしの1巻刊行とほぼ同時にスタートしていたので、雑誌読者にとってはアグニは優樹と同時に登場していたのですが、 文庫本で初めて読む大多数の人にとっては、アグニはあとから登場することになってしまったんですね。 さらに雑誌連載の序盤でネレイドを登場させてしまったため、書き下ろしのネレイド登場編を2巻にして、 雑誌連載を3巻に回さざるを得ませんでした。 この結果、メインヒロインであるアグニがシリーズ中盤の3巻まで出てこないという変な構成になりました。 これではほとんどの読者は「なんで後から出てきたアグニがメインヒロインなの!?」と思ってしまうでしょう。 しかもぶっちゃけ3巻は面白くなかったのですよね。4、5巻が面白いだけにこれは大変にもったいなかったです。
しかし榊一郎作品が今も強いメッセージ性を持っていることははっきり確認できました。今後も榊さんの作品には期待大です。(2007/4/30)

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