「銀盤カレイドスコープ」の既刊情報&感想
著者 海原零 レーベル 集英社スーパーダッシュ文庫

表紙画像のリンク先はbk1です。

銀盤カレイドスコープ Vol.1 ショート・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ1 ショート・プログラム
初版 2003/6/30
ISBN 4-08-630132-6
感想 色々な点で本格的だと聞いていたのでフィギュア・スケートNHK杯の録画を見ながら読みました。 採点方法はもう変更されてしまっていますが、 プログラムの構成はこの本が出た時と変わっていませんでした。 そしてこの本のおかげでフィギュアの観戦をとても楽しめました。 プログラム全体の組立て方、技の出し方、選手たちの努力、思惑、駆け引き、プレッシャー、 今まで気付かなかったそういうものがよく分かるのです。 凄ぇ!この本凄いよ!スポーツの勝負というものをこんなに上手く書いた本はなかなかないでしょう。
とりわけ追い詰められた精神状態から、 葛藤と苦悩を乗り越えて才能を開花させていく主人公タズサの心理描写には拍手喝采です。 もう駄目ではないか?これに失敗したらおしまいじゃないか? そういう不安を作者は隠さずに書き、 ある時は理路整然と、そしてある時は強引に理屈を付けて克服させていきます。 現実はこの本ほどうまく行かないかも知れません。 でも、うまく行くかもしれない。うまく行くさ!そう思わせてくれるだけの説得力があります。(2003/12/13)
銀盤カレイドスコープ Vol.2 フリー・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ2 フリー・プログラム
初版 2003/6/30
ISBN 4-08-630133-4
感想 国内選手権の描写も素晴らしかったですが、オリンピックはもっと凄いです。 下馬評を覆して大舞台で大暴れするタズサ。 強豪と互角以上に渡り合った結末は・・・なにか「ロッキー」みたいなラストですね。(笑)
結局タズサの中に居た「自称幽霊」ピートの正体は明らかになりませんでしたが、それで良いと思います。 この作品、ファンタジー色はとても薄いです。 ファンタジーと呼べる部分はピートが出てくることくらいですし、 ピートが存在するためのファンタジーとしての根拠も貧弱です。 しかしファンタジー設定に深入りせずにボロを出さなかったこと、 最少限のファンタジー設定を最大限に効果的に使ったことは賞賛されるべきでしょう。
あるいはピートは幽霊などではなく、 タズサがオリンピックを乗りきるために自分の中に創り出したもう一人の自分だったのかも知れません。 たとえそうだったとしても、これは素敵なロマンティック・ストーリーです。
続編の刊行が決定したようですが、安っぽいファンタジーには走らず、 現実に起こり得る、リアルな話を続けていって欲しいですね。(2003/12/13)
銀盤カレイドスコープ Vol.3 ペア・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ3 ペア・プログラム
初版 2004/1/30
ISBN 4-08-630167-9
感想 幽霊ピートが戻ってくるとか、生き返るとか、誰かに憑依するという安直な展開だったら 本を破り捨ててやろうかと思っていましたが、大丈夫。 ファンタジー色を廃した、普通(?)のフィギュアスケート小説となりました。 そう。ファンタジーとしての必然性がなかったら、ファンタジーでなくても構わないんです。 ピートはタズサの心の中の存在であれば良い。 作者のふっきりの良さに拍手です。
全体の構成は1、2巻とほとんど同じです。 序盤から中盤は主人公タズサと相手方のブラックパール(1、2巻だとピート)の苦悩と葛藤と努力、 終盤はクライマックスの演技というパターン。 しかしまぁ、このパターンがフィギュアスケートという題材に見事にハマっています。 さすがに今後も何度もやったら飽きるかも知れませんが、今回は成功しています。 多分、タズサにとってペアが未知の領域であるということが、不安と緊張と期待を持続させてくれるのでしょう。 あ、あとロマンスか。(笑)
ともかくも3巻も良い出来でありました。 まだ続きがありそうですが、 折角3巻まで上手くいったのですから間隔が開いても完成度の高いものをバシッと出して、 その後はだらだらと繋げないでスパッとやめるようなシリーズ展開を期待。(勝手な言いぐさだ・・・。)(2004/1/24)
銀盤カレイドスコープ Vol.4 リトル・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ4 リトル・プログラム
初版 2005/2/28
ISBN 4-08-630244-1
感想 やってくれました!
「抜群――」
全体の展開は思いっきりベタなスポ根&ロマンスです。ど真ん中のストレートです。 でもベタでもストレートでも構わない。パワーでねじ伏せて感動させてしまえ。 海原零さんはそう言っているように見えます。
パワーと書きましたが、小細工抜きの技量と言った方が良いでしょう。 ラストがどうなるかなんて序盤でほとんど想像が付きます。けれども大切なのはそこに至る過程です。 プレッシャーに追い詰められていく桜野ヨーコ。 彼女が「トップスケーター桜野タズサの妹」ではない、桜野ヨーコという「自分」をどうやって見つけていくのか。 その過程の心理描写が秀逸です。 自分は何がやりたいんだろう?ここにいるのは誰なんだろう? 12歳でここまで考えるかよ、とも思いましたが、圧倒的な文章力に納得させられてしまいました。
伝えたいことがあること、それを伝える力量があることは素晴らしいことだと思います。 海原零さんにはその2つがあります。この人にとって作家は天職でありましょう。 必ずや海原零さんの努力が報われ、注目を集める時が来ると確信します。(2005/2/26)
銀盤カレイドスコープ Vol.5 ルーキー・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ5 ルーキー・プログラム
初版 2005/9/30
ISBN 4-08-630255-1
感想 「その左足、使わせてやる」と言ってキャンディがフォアスケーティングに入った途端、 「あ、トリプルアクセルをやる気だ!」と叫んでいました。 それくらい、この作品のスケートの描写は臨場感があって分かりやすいです。
桜野タズサは今回もど真ん中のストレート勝負。手加減無用の容赦無用です。 ルーキーのキャンディを完膚なきまでに叩きのめす場面には唖然呆然。とどめのトリプルアクセルは圧巻です。
この巻は前巻から引き続いてタズサがメインの話ではありません。 しかしその個性は主役のヨーコやキャンディを食ってしまうほど強烈です (もちろん価値観の異なるヨーコやキャンディがいるからタズサのキャラがより映えるのでしょうけれどもね。)。 フィギュアスケートの絶対的な強さを求めていく、至上主義的な信念。 たくさんのものを犠牲にしながら、それを後悔しない孤高な生き方。恐いくらいに、悲しいまでに見事です。 1〜3巻で描かれた揺れている内面もまた読んでみたいものですが、この強いタズサも良いものです。 なによりタズサのキャラが5巻通して成長しつつも頑として貫かれていることに拍手喝采です。(2005/9/24)
銀盤カレイドスコープ Vol.6 ダブル・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ6 ダブル・プログラム
初版 2005/11/30
ISBN 4-08-630267-1
感想 をを、凄え!渾身の力作です。 「銀盤カレイドスコープ」のシリーズ化が決定された時、 「1、2巻の完成度がぶち壊しになるんじゃないか?」と不安でしたが、 今は3巻以降のエピソードを読むことができたことに満足しています。 海原零さんのフィギュアスケート研究の熱心さには驚かされます。 スポーツ競技の醍醐味である自分との闘い、他者との闘いを本当に上手く捉えられていると思います。
さすがに桜野タズサを正面きって描き続けるのは難しいのでしょう。 4巻ではヨーコ、5巻ではキャンドル、 そしてこの6巻では至藤響子とドミニク・ミラーを通して間接的に桜野タズサを描いています。 しかしだからといって妥協や手加減は皆無です。 まず響子とドミニクの描写が凄い!シリアス一直線。 響子とドミニクにもこんなに壮絶なエピソードを背負わせているとは。 そしてフィギュアスケートに真摯に向き合う響子とドミニクの上を、 努力してはい登ってきた彼女たちのさらに上を、タズサは跳躍して行ってしまうのです。
ガブリーに競り負けながらも、攻め続けたことに納得して笑顔のタズサ。強い。恐いほどに強いです。 破れた響子とドミニクもしっかり描かれたて(というかこの巻の主役ですが)大満足です。
次のエピソードで完結のようですが、期待できそうです。(2005/11/26)
銀盤カレイドスコープ Vol.7 リリカル・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ7 リリカル・プログラム
初版 2006/6/30
ISBN 4-08-630302-7
感想 良いぞ良いぞ!あと完結まで2冊ほど要りそうですが、ラストに向けて盛りあがってきました。 海原零さんって本当にしっかりした作家だと思います。 周囲の環境には必ずしも恵まれていないですが 「そんなものは関係ない!ベストを尽くして、作品を完成させるんだ!」という意気込みがありますし、 それが空回りせずに作品を通して伝わってきます。
スケーター達の努力と苦悩の描写はますます洗練され、読む方を戦慄させます。 ひたむきというか、人から認められるためにはここまで努力の量と方向性の正しさが必要なんだと突き付けられます。 しかもそれは必要条件であっても、十分条件じゃないんですよね。 努力は報われないかもしれない。タズサはリアに勝てないかもしれない。 でも自分が動かなければ、報われる可能性すらないのです。 多分そのことを海原零さんは自分自身にも言い聞かせているんじゃないかと思います。(2006/7/27)
銀盤カレイドスコープ Vol.8 コズミック・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ8 コズミック・プログラム
初版 2006/11/30
ISBN 4-08-630326-4
感想 相変わらず鬼気迫るものを書いてきます。 特に中盤から終盤にかけてのタズサの焦りには、完全にノックアウトされてしまいました。 上手いよなぁ。具体的どういう風に上手いのか説明できるほど文章技術に詳しくないのがこういうときに悔しい! たぶん、これだけ上手ければライトノベル以外でも全く問題なく受け入れられると思うのですがどうなんでしょう。 「銀盤カレイドスコープ」を集英社文庫で出してみるとかさ。
タズサが強くなっていく過程については、少なくともこの8巻まではしっかり描けていると思います。 非現実的な強さのインフレに走るのではなくて、あくまで人間同士が互いの限界に挑んでいる状態を描けています。 この状態のまま9巻のラストまで行ってくれるととても嬉しいのですが、果たしてどうなるでしょうか。 やめてよ〜、この期に及んで人間ができそうもない大技とかは。(笑)
しかしフィギュアスケートというのは、自分が行動し、しかも見られる立場にもいる、つまり「演じる」主役を描くにはもってこいの題材ですね。 しかもその演技は採点されて、勝敗が付くのです。誰が一番上手く演じたかがはっきりしているのです。 こうした題材を、では何故使う人が少ないかと言えば、やっぱり生半可に使っても駄目だからなんでしょう。 海原零さんはそれを使いこなせるだけの力量があるのです。(2006/11/29)
銀盤カレイドスコープ Vol.9 シンデレラ・プログラム タイトル 銀盤カレイドスコープ9 シンデレラ・プログラム
初版 2006/11/30
ISBN 4-08-630331-0
感想 「銀盤カレイドスコープ」の最終巻は、シリーズ中で何度も使われてきた挫折→苦悩→克服・成功というパターンでした。 しかし「なんだワンパターンか」と言うなかれ。海原零さんが描くとすさまじい破壊力です。 個々の場面での心理描写も丹念ですが、 (パターンに乗っているとはいえ)フィギュアスケートの大会日程や競技方法を非常に上手く利用した構成にうならされました。
1、2巻でショート、フリーというサブタイトルを使っているので今回は避けたのでしょうが、 8、9巻もそれぞれ「ショート・プログラム」「フリー・プログラム」と呼んで差し支えない内容ですね。 8巻のメインはタズサのショートの演技ですし、9巻のクライマックスは前半のリアと後半のタズサ、それぞれのフリー演技です。 そしてこのフリーのテーマ、8、9巻の表紙にもなっているリアの「赤い靴」とタズサの「シンデレラ(のガラスの靴)」の対比がとにかく素晴らしい。 「赤い靴」が前半は幸せな話ながらバッドエンドであるのに対し、シンデレラは全く逆の展開の話です。 そしてその展開はリアとタズサの、オリンピックと世界選手権での演技内容&勝負の行方とぴたりと重なるのでありました。 物語の構造というものは、これほどまでに心を揺さぶるものなのでしょうか。
最後ができ過ぎてないかとか、ピートのことをもっと思い出してよとか思わなくはないのですが、 1、2巻で完全に完結している状態から無理にシリーズ化したことを考えれば、 これ以上望むのはバチが当たりそうなほど最後まで緊張感を保った作品でした。 それだけに!それだけにアニメ化がコケたのが悔しい! 一読者でさえこうなのですから、作者の海原零さんの心中はいかほどか。7巻や9巻のあとがきではその一端がにじみ出ています。 その悔しさを忘れないで、なんとか人気作家のステージまで這い上がって来て欲しいです。 きっとできるよ。実力を100%発揮できれば。(2006/11/30)

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