「宅八郎氏みたいに生きてみたい」オウマー氏は普通のサラリーマン

ネット上の人々 文■タカハシ牛乳

 オウマーとはオウム・ウオッチャー、つまりオウム関連の情報収集に情熱を傾け、オウムの動向を常にチェックし、さらにオウムネタをパロディにして面白がる人達のことである。この不埒な人種が地下BBSやウェブ上で密かに繁殖しているらしい。オウム真理教をネタにフザけた替え歌を作ったり、女性信者の合成ヌード写真を作ったり、危険なゲームソフトを開発したりと、サイバースペースの裏側で好き放題やりまくっているらしい。
 34歳の会社員「新人類」氏は、新聞や雑誌に掲載されるオウム関連の記事はすべて目を通し、オウム教団を扱った書籍のほとんどを買い集め、サティアンショップに出向いては教団機関誌や説法テープ、ビデオまで買い漁る典型的なオウマーの一人である。
 「オウマーとしての修行を積み最終解脱を目指すため、現在まで独身を守り通した」と語る「新人類」氏。
オウマーですから娯楽として楽しんでいます

−オウムを面白がるなんて不謹慎だという批判はないんですか?
「それは当然ありますよ。…「地下鉄サリンゲーム」ってありますよね。あのゲームがテレビのワイドショーや雑誌や新聞でものすごく叩かれたんですよ。あんな悲惨な事件を面白がってゲームにするなんて非常識もいいとこだと。でもそれでオウマーたちが自粛したかというと、そうでもなくて(笑)。あるところにはあるんですよ、今だにね。単に地下に潜っただけで。あ、私のページにもありますよ」。

(「新人類」氏のホームページには「地下鉄サリンゲーム」ソフトはもちろん、尊師が「修行するぞ」と言いながら空中浮遊するスクリーンセーバー「フライング尊師」、画面いっぱいに尊師が出てくるスクリーンセーバー「尊師大増殖」、ゲームに失敗すると尊師が村井にポア指令を発令し、5秒以内にリセットしないとハードディスクをすべてポアするという恐ろしいゲーム「倉庫番イン上九一色村」などがアップされている。ただしほとんどのソフトがWin対応のみ)

−この「倉庫番イン上九一色村」ゲームは怖いですね
「ポアしない「爆弾抜き」と書いてあるバージョンを1回試したんですよ。でも「爆弾抜き」と書いてあるのにモニターにカウントが表示されるんです。で、10秒からカウント始まるんですよ、10、9、8、…って(笑)」
−そりゃ恐いわ。
「だからすぐにストップして…−結局どういうゲームなのか今だに実験できないでいるんです。

−サティアンショップでよくショッピングされるそうですけど、頻繁に行くんですか?
「毎月行ってますね。買いたいものがなくても気になるんですよ。信者さんどうしてるかなあって。信者さん、優しく話してくれますからね。で、行くとやっぱり買っちゃいますね(笑)。機関紙とか本とか」
−買った後ちゃんと読んでいるんですか?
「読んでますよ」
−それ読んで感化されるということは…
「ありませんね。そこはオウマーですから娯楽として楽しんでます」

とにかく見ていて面白いんですよ

−「新人類」さんがオウム真理教に注目したのはいつぐらいですか?
「私、かなり前からオウムのこと知っていたんですよ。オウムのウサン臭さに気付いたのは江川紹子さんよりも古いという自負があります(笑)。坂本弁護士一家失踪事件が起きるずっと前、今から8年くらい前ですか、「サンデー毎日」がお布施の荒っぽさで初めてオウムを叩いたんですよ。その少し前から注目するようになったんです。当時、仕事で大学入試の場内整理してたんです。そしたら大学の外で、受験に来た学生の帰り際を狙ってオウムの信者さんがビラ配ってたんです。そのビラには「これ(ビラ)を捨てると地獄に落ちるぞ」とか書いてあるんだけど、みんな余裕で捨ててるんですよ。もう道端ビラだらけ。配ってる向こう側にゴミ箱置いてあるんだけど、そこももうビラでいっぱい(笑)。カッコ 悪くて変なヤツらだあって思いましたね。だけど妙にひっかかる部分があったんですよ」
−入信しようと思ったことは?
「1度もないです」
−ではオウムに引かれる理由、オウムに「ひつかかる部分」ってなんですか?
「なんでしょうね…。いろいろあるけれど…、とにかく見ていて面白いんですよ。イニシエーションとかヘッドギアとか尊師がサマナとセックスしたとか妙に馬鹿馬鹿しくて飽きないんです。それにあの選挙! 変なカッコに変な歌!「ショーコーショーコーショーコー」(笑)サイコーですね。ゾウさんの帽子かぶったオウムシスターズもマンガチックでよかったし。例の事件もサリンやガスを使うというのがそもそも卑怯ですよね。たとえば中核のような左翼系テロ組織なら爆弾とか使うでしょ。でも彼らはサリン(笑)。いかにも卑劣ですね。で、サリン撤いといて「私は潔白だ(笑)。これが中核や革マルだったら犯行を否定しませんよ。その点オウムはウソついたり逃げまわったり一所懸命でしよ。しかも犯行声明も出さずに抜き打ち。それも体制側でなく一般市民に向けてテロ。もう卑劣な方向卑劣な方向へ突っ走ってますよね。それでいながらどこかマヌケ。確実にネジ一本抜けてますよ。米軍が毒ガス攻撃してるとかスバラシイこと言い出すし。もうホント飽きませんね」

サラリーマンはツライです、やっぱり

−「新人類」さんの日常はどのようなものなんですか?
「いや、サラリーマンですからね、ツライですよ」
−サラリーマンってツライですか?
「…ツライですよ(シミジミと)。まあ、いろいろと…ね、組織の中で動いているとね。…10年やってるけど今だに適応してないですよ、サラリーマンには。でもやめることもできないし。どこかで諦めれば楽なんでしょうけど。たとえば佐高信の言う「社畜」に徹してサラリーマンというものにハマっちゃえば楽なんでしょうけどね。まだどこかで徹しきれてない部分があるんですよ」
−今言われたことも含めて…、オウムに引かれるというのも自分の内部に共通する何かがあったからじゃないですか?
「そう、あります。自分の中にもそういう部分があるから…一歩間違えればどうなっていたかわかりませんね。それに…羨ましいと思う気持ちもありますよ。ああいうふうになってみたい、やってみたいってね。イニシエーションしたりハードにお布施させたりキレイなサマナとセックスしてみたりとかね。麻原みたいに、ケイマーとかサクラーとかキレイな女性信者を脇に従えて教団に君臨してみたいなって思いますよ。少なくともサラリーマンやってるよりかずっといいでしょ。
−地下鉄サリン事件についてはどう思いましたか。たとえば「なんだよ、これしか死ななかったのかよ」とか…
「それはやっぱり心のどこかで…もっとコトが大きくなればいいというのは…ありましたね」
−もう少し派手に、数千人の単位で死んでほしかったという気持ちは?
「あったあったあった(ニコ)」
−じゃ、もう1回地下鉄サリン事件のようなことが起きてほしいという気持ちは今でも…
「あるあるある(ニコニコ)」
サリンも地下鉄に撒くなんてセコいことはせずに、東京上空から一発派手にズドーンと撒いて欲しかったとか…
「思う思う思う(ニコニコニコ)。だから心の底で林泰男に期待している部分 ありますね」
なるほど、林や菊地が生き残っている限りまだ何かが起こるぞという期待感があるわけですね?
「そういう部分(期待感)は確実にありますね。…でももうサリンないだろうしな…」

あの事件を楽しんでいた人は少なくないはず

−オウム真理教やオウム事件を面白がるなんて不謹慎だという批判に対する「新人類」さんの解答をお願いします。
「こう言うと反感買うかもしれませんが、あの当時、あの事件を楽しんでいた人は少なくないはずなんです。オウムネタで冗談を言い合っていた人たちもいたはずです。不潔で異様な場所を「サティアン」、上司を「尊師」、忘年会の会費を集めるときは「お布施」、そんなふうにみんな平気でオウム用語を使って楽しんでいたじゃないですか。殺りく用語の「ポア」なんて日常会話でバンバン出てくるじゃないですか。私みたいなオウマーはそれを極端に拡大した存在なだけです。でもね、非常に正義感が強くて良識的で私のページを不謹慎だと頭から批判する人も、実は私と同じ少数派なんですよ。オウムを悪として糾弾する常識的な部分がありながら、オウムを楽しんじゃうような無責任な部分も兼ね備えている人たちがほとんどだと思うんです」
−なるほど
「まあ、批判はもっともだと思いますよ。ただ、自分を高いところに置いて正義感を振りかざしている人たちだけは嫌悪感を覚えますね。…私はね、変な人が好きなんですよ。立派にハズれている人。私自身それができないというところがありますから。サラリーマンという職業にしがみついて日々を送ってますけど、ホントは宅八郎みたいに生きてみたいんですよ(笑)」


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