タイトル

カタツムリといっしょ

地域を生かした生物教材

マドリッド日本人学校 教諭 佐藤  崇

1.はじめに

 3年前,マドリッド日本人学校に赴任して,小学部2年生を担任することになりました。低学年の教科である生活科に「生き物を育てよう」という単元があり,教科書では,ざりがにを育てる例がのっています。

 しかし,私の勤務するマドリッド日本人学校の近くには川はなく,夏には,ほとんど雨が降らず,気温もぐんぐん上がり,40度を超える日も珍しくありません。そのため,学校の周りは,乾燥した荒れ地が広がっているだけなのです。

 「生き物を育てよう」という単元を前にして,はたと困ってしまいました。某日本人学校の先生は,メダカを水筒に入れて飛行機で運んだ,という話を聞いたことがあります。その地域で,学習内容に合った素材が見つからなく,最後の手段だったのだとは思いますが,海外の地にあって,なぜ日本なのでしょう。私は,その地の素材を生かした生活科を実践したいと考えていました。マドリッドにはマドリッドに合った生物素材があるはずなのです。とは言ってみても,子供たちが継続的に,しかも成長していく様子が分かりやすく観察できる生物教材は,なかなか見付けることはできませんでした。

子供の日記 
4月19日 七瀬さんが教室のゴミを捨てにいきました。七瀬さんは息を切らせて急
いで戻ってきました。カタツムリを見つけたというのです。石井君は,教室を飛び出
してカタツムリをつかまえにいきました。石井君が帰ってくると,みんなは手のひらに乗っているカタツムリを目を丸くして見ています。1匹だけじゃかわいそうだということになり,みんなでカタツムリを探しに行きました。全部で6匹になりました。
                      H6 小学部2年生 伊谷 友紀子
 

 4月19日,クラスの女の子がカタツムリを見つけます。雨も降らず乾燥しきっているこんなところで,よくぞ生きていた,という感じでした。

 このようにして,子供たちとカタツムリの生活が始まったのです。

2.カタツムリとの生活

(1) カタツムリの飼い方を調べよう

 次の日,子供たちは,図書室に行き,カタツムリはなにを食べるのか,どんなところで飼うのと一生懸命調べ始めました。

 その結果,餌は,ニンジン,りんご,キャベツ,きゅうり,こまつななど。飼い方は,水槽などに5cmの深さに土を入れて,風のよく通る日影で飼うといいことが分かりました。

 カタツムリの水槽わきに,何種類もの昆虫図鑑を置き,カタツムリについて詳しく知りたいとき,すぐ調べることができるようにしました。子供たちは,「角は大触覚というんだ。」などといいながら,カタツムリの体の部所を次々に調べていきました。

 また,同じ種類のカタツムリでも,大きさ,色,模様などが微妙に違います。そこで,子供たち一人一人に自分のカタツムリを決めさせ,名前を付けました。名前を付けることで,愛着が増し,自分のカタツムリを見分けるために,殻の模様や体の部位などを詳しく見ることになります。子供たちは,こんな名前を付けました。

 お父さん・・・・・・・一番大きいから  

 お母さん・・・・・・・二番目に大きいから

 チューちゃん・・・・・ほかのカタツムリとす            ぐにチューをするから

 かくれんぼちゃん・・・板の下にすぐかくれる             から

 ちびちゃん・・・・・・小さいから

 赤ちゃん・・・・・・・一番小さいから

 クラスで飼っているカタツムリは,二種類に分けることができます。一つは,大型で殻の色が茶色のカタツムリ。二つ目は,小型で色が白っぽい茶色のカタツムリです。スペイン語で,カタツムリの総称は,カラコール(caracol)と言いますが,この二種の違いをどのように言い表しているのでしょう。子供たちも,「両方カラコールなのかなあ。」「違う呼び方があるんじゃない?」などと言う疑問の声があがりました。そこで,用務員のホセさんに聞いてみることになりました。すると,大きく茶色い方が,カラコール(caracol)で,小さく色が白っぽい方が,カラコーラ(caracola)と教えてくれました。

(2) カタツムリはおもしろい

オレンジ色のうんこ発見!(H6)

 子供の日記 
4月26日 朝カタツムリに水をあげていました。すると水槽の中にペチョッとオレ
ンジ色のうんこが付いていました。多分,にんじんをあげたからだと思います。カタ
ツムリは,いろいろなうんこをしておもしろいです。
                         H6 小学部2年 久住 俊一
 

 カタツムリは,食べた物と同じ色の糞をします。キャベツを食べると緑,紙を食べたときは,白い糞をしました。糞は,えりのところに空いている穴から出てきます。

この穴のことを子供たちと一緒に調べてみると,この穴は,糞を出すためのものですが,同時に空気を取り入れる穴でもあり,肺につながっているのだそうです。「え!きたない!」などと言って,子供たちは,とってもとってもびっくりしていました。糞をする穴と空気を取り入れる穴が同じだなんておもしろいですね。

カタツムリはぜいたくだ!!(H8)

 生活科の時間に,カタツムリの水槽の掃除をしていました。水槽の中の物を全部取り出しているとき,おもしろい物を見付けました。カタツムリが食べたにんじんなのですが,外側の固い固い部分は,残しているのです。中の柔らかい部分だけを食べたために,にんじんは,チューブのようになっていました。人間にもパンのみみを食べない人がいますよね。それとにていました。

教科書を食べた!!(H7)

 4月27日の5校時,国語で「ふきのとう」の最終場面を学習しているときのことです。ついつい熱が入って5分程授業がのびてしまいました。途中,3年生の石井君が2年生へ,プレゼントのカタツムリを持って教室に来ました。みんなで「ありがとう。」と言って授業を続けました。その間,もらったカタツムリを,机の上ではわせておきました。授業の後,机の上を見てみると,カタツムリが教科書の上をはっています。水槽に移そうと思い,つまみ上げると,何と,カタツムリは教科書を食べていたのです。私の教科書は,穴が空いてしまいました。「ああ,校長先生に怒られるう!」と言うと,子供たちは,校長室に走っていきました。帰ってきた子供たちは,「校長先生,怒っていなかったよ。」「よかったね。」と教えてくれました。

 教科書を食べた歯は,どうなっているのだろうという疑問が子供たちの中から起こり,カタツムリの歯のことを子供たちが調べ始めました。


カタツムリの舌には,小さな歯がたくさん並んでいます。この歯は,海草を食べるアワビやサザエの歯と同じもので,歯舌と言います。その数は,1万本以上といわれています。たくさん並んだ歯は,やすりのようです。カタツムリが木の葉や若葉を食べるとき,削り取るようにして食べるのはそのためです。
 鋭く丈夫な歯も,使っているうちにすり減ってきます。でも,新しい歯がまたは生えてきます。
科学のアルバム カタツムリより
 

 子供たちは,歯の数が1万本もある,というのを知ってとっても驚いていました。家でカタツムリを飼っている子は,カタツムリが物を食べるときの音を聞きました。日記を紹介します。

 子供の日記 
 7月9日 今日,寝る前にカタツムリを見てみると,カタツムリがにんじんの上に乗っていました。そして,よく聞くと音が聞こえていました。にんじんを食べている音です。ぼくはびっくりしました。 
H8 小学部1年 山本 直宗
 

 

カタツムリは,高い方が好き(H6)

 カタツムリをガラスの上に乗せ,裏から見ることで,足の筋肉の動きを観察しました。粘っこい液を出しながら体を波打たせて移動することがよく分かりました。「うわあ,筋肉が動いている。」と子供たちは驚きの声を上げていました。

 また,水平に置いたガラス板にカタツムリを乗せると,それぞれ好きな方向に動いていきますが,ガラス板を垂直に立てると,カタツムリは一斉に上に向けて移動し始めます。何回やっても同じ結果になりました。子供たちは,「カタツムリは高いところが好きなんだね。」と,驚いていました。

カタツムリは忍者だ!!(H6)

 「カタツムリは,どんなところでも歩けるのか?」子供たちに,鉛筆,ガラス,ナイフ,紙など見せながら聞いてみました。子供たちは,「先生,やめて!カタツムリがけがしちゃうよ。」と,とっても心配そうです。子供たちは,恐る恐る見ていましたが,カタツムリはけがをすることもなく,よく切れるナイフの上でも平気です。鋭い刃の上でも筋肉をうまく動かしながらするすると動いていきます。「人間だったら,血が出てるよね。」

 ガラスの上をはっているカタツムリを,全く逆さまにしても普通に動いています。「カタツムリは,忍者みたいだ!!」

 忍者のようにどこでも歩けるカタツムリにも,弱点があったのです。

「先生,カタツムリは,ガラスの上は早く動くけど,紙の上は,遅いよ。」

 子供が発見したように,ガラスの上でスーッと動いていたカタツムリを紙の上に持っていくと,急に動きが遅くなり,移動するのも大変そうです。足に付いている粘液が紙に吸い込まれるためなのでしょう。

魚屋さんからやってきたカタツムリ(H7)

 6月10日,朝,沙羅さんがうれしそうにカタツムリを私に見せにきました。「先生,このカタツムリ,魚屋さんからもらってきたんだよ!」と,ニコニコ顔です。話を詳しく聞いてみると,昨日お母さんとスーパーに行ったのだそうです。魚売り場に行くと,いろんな魚が並んでいるのに混じってカタツムリが一匹,板にくっ付いていたのだそうです。それを魚屋さんからもらって来たというのです。

 クラスで飼っているカタツムリには,八百屋さんのほうれん草やセロリにくっ付いてきたカタツムリもいます。

 子供の日記 
 5月9日 ボクはバスから降りて家に行ったら,カタツムリがいてびっくりしました。どこにいたのかお母さんに聞いたら,ほうれん草にいたと言いました。
 名前はシュルルにしました。ほうれん草はきれいでした。
H7 小学部2年 斉藤 健一郎
 

 どうしてカタツムリがスーパーの魚屋さんや八百屋さんにいるのでしょう。それは,スペインでは,カタツムリを食べるのです。スーパーでは,袋に入ってカタツムリが売られています。私がよく行くスーパーでは,貝と一緒に売っていました。

 カタツムリは,そのままでは食べられません。まず体の中をきれいにする必要があります。そのために,小麦粉の中にカタツムリを入れて糞が白くなるまで,つまり小麦粉だけを食べた状態にするわけです。その後,調理するわけですが,その方法は,いろいろです。そのままゆでたのや,トマトのソースで煮たものなどがあります。私が見た限りでは,カタツムリの姿そのままのものが多かったです。

 マドリッド赴任して1,2年目,カタツムリを食べてみようと思いましたが,とてもかわいがっているカタツムリと同じだと思うと,心が痛んで,食べることができませんでした。 3年目の7月,せっかくスペインにいるのだから試しに食べてみようと思い,お総菜屋さんから,カタツムリの料理を買ってきました。

 カタツムリは,オレンジ色のソースの中に入っています。形も色もクラスで飼っているものと同じでした。(3年間,カタツムリと過ごしてきたので心が痛みます。)カタツムリをつまんでよく見ると,身体がそのままで,大触覚もピョンと伸びているのも見えます。心を鬼にして一つ,つまようじで身体を殻から引き出して口へ。(うまい!)20匹ぐらい入っていたと思いますが,全部ペロッと食べてしまいました。貝だと思うと何ともないものです。

カタツムリこんなところに(H7)                   

 6月27日,生活科で自分のカタツムリの絵を描いていました。自分の机の上にカタツムリをはわせて,じっくり観察しながら描いています。「ぼくのカタツムリ,首のところが黒っぽいんだよ。」「私のカタツムリは,色がみんなのより薄いよ。」一人一人のクレパスの色も,カタツムリの特徴に合わせて微妙に違います。子供たちは,クレパスを一生懸命に動かして楽しそうです。

 奈津子さんの机の板のところを見ると,何か白っぽいものが見えます。何だろうと思って近付いてみると,何とカタツムリでした。以前,奈津子さんの家で買ってきたセロリに付いてきたカタツムリなのです。(それで名前は,セロリーなのです。)「先生,セロリーいなくなちゃった。」と,悲しそうに言ってたのが,約1か月程も前のことだと思います。ですから,セロリーは,飲まず食わずで(?)約1か月,奈津子さんの机のところで,じっと我慢の生活をしていたのでした。子供たちは,びっくりして奈津子さんの机の周りに集まりました。早速,水をかけてあげましたが,なかなか身体を出しません。「死んじゃった?」と,みんな心配そうでした。お弁当の時間が過ぎても,5時間目が始まっても何の反応もありません。子供たちは心配しながらも体育の授業に行きました。

 2時頃,セロリーが顔を出しました。「元気だったよ。奈津子さん!」

(3) 命を教えてくれるカタツムリ

カタツムリが交尾(H7)

 5月30日 今日の朝,9時頃のことです,翔太郎君がカタツムリのお世話をしていました。「先生!カタツムリが交尾している!」水槽をのぞくと,2匹のカタツムリが互いに白い槍のような管をのばし,首のあたりに差し込んでいます。この時,教室には,4,5人の子供たちがいましたが,「本当だ!!」と,目を丸くして水槽をのぞき込んでいます。この様子を是非見せたくて,外で遊んでいた子供たちを呼びに行かせました。外にいた子供たちも驚いて教室に駆け込んできました。全員の子供が,カタツムリの交尾を見るのは初めてです。とても興奮していました。私もこの瞬間をカメラに撮ろうと,職員室からカメラを持ってきました。あまりにもカタツムリの交尾に夢中になったもので,職員の朝の打ち合わせのことをすっかり忘れ,日直の井上先生に,教室に迎えに来てもらうまで気付きませんでした。

 1時間目は,隣のセント・マイケル校との交歓会でした。出発する9時25分になっても,まだ,交尾が続いていました。セント・マイケル校から戻ってもまだ続いています。10時30分頃でした。1時間半も経過しています。結局,このカタツムリの交尾は,2時頃まで続いたのでした。5時間でした。教室にある図鑑では,1時間程とありましたが,スペインのカタツムリは違うのでしょうか。

 カタツムリは,雄と雌の区別がない動物で,体の中には,両性腺と言って,卵や精子をつくる器官があります。ですが,卵を産むためには,他のカタツムリと交尾をしなければなりません。この時,精子が入った袋を交換します。でも,時には袋の交換に失敗して,身体の外に袋を落としてしまうこともあるそうです。クラスのカタツムリはどうだったのでしょう。交尾は,互いの精子の袋を交換するというのですから,2匹のカタツムリとも卵を産むのでしょうか。楽しみです。それを確かめるため,今日交尾した2匹のカタツムリの殻に,赤い印を付けておきました。1か月程すると産卵だそうです。そのときを楽しみに待っていたいと思います。

卵を産むところを見たぞ!!(H6)

 9月7日 カタツムリ大好き少年の悠君が,いつものように,カタツムリの水槽をのぞき込んでいました。「あっ!!」悠君は何かを発見したようです。「デビル(飼っているカタツムリの中で1番大きいのでこう呼んでいます。)が卵を産んでいる。」「でっかいよ!」 子供たちは,悠君の声に驚いて水槽に駆け寄ってのぞき込みました。子供たち7人,卵の数の多さと,その大きさにとてもびっくりしています。数えてみると20個ぐらいはありました。直径は3〜4mm位で,白い色をしています。その卵を観察しやすいように,ビンに入れて一段落しました。

 私は,柘先生と打ち合わせがあったので,職員室に行きました。その後,素晴らしい光景を目の当たりにすることになるのです。

 その間,子供たちは,水槽から全部のカタツムリを出して,自由に床をはわせていました。すると,また,デビルが産卵を始めたのだそうです。子供たちは,体の中から卵が出てくる瞬間を目の当たりにして,とても興奮したそうです。子供たちは,私を呼びに職員室まで来たのですがいません。ホールで「佐藤先生ーーーー!」と大声で呼んだそうですが,私には聞こえませんでした。15分位して教室に戻ると,「先生,また産んだんだよ!」「卵が出てくるところ見たんだよ!」「先生のこと呼んだのに。」と自慢げにはなします。私は,子供たちの話を聞いて,本当に残念に思いました。

 すると,「先生,また産まれそうだよ!」と,子供たち。私と7人の子供たちの目は,デビルに釘付けになりました。丁度首のあたりが膨らんできたかと思うと,白い卵が顔をのぞかせ,ポロッと身体の外に落ちました。私も,生まれて初めて見るカタツムリの産卵にとても興奮してしまいました。素晴らしかったです。

 子供の日記 
 カタツムリが卵を産んだよ。
 今日,カタツムリが卵を産みました。うれしいです。カタツムリの顔の後ろの白いのが膨らんで卵が出てきます。みんなで「やったあ!!」と,言いました。また産んでほしいです。
H6 小学部2年生 石井 貴寛
 

卵の数を数えてみよう(H7)

 9月21日 「先生!卵いっぱいだよ!」翔太郎君が職員室に私を迎えに来ました。教室に行くと,子供たちは大騒ぎです。カタツムリの水槽をのぞいてみると,全部で10匹ぐらいのカタツムリが土の中に潜っています。その中の1匹を土の中から引き出してみると,穴の中に卵がたくさんあるではありませんか。1匹で30個ぐらい産んでいます。1時間目に,みんなで土の中から卵を掘り出してみました。出るわ出るわ,とっても数え切れません。みんなで観察しながら,プラスチックのコップに入れていきます。卵の数があまりにも多すぎるので,あっと言う間に1時間目が過ぎてしまいました。休み時間,カタツムリの卵のことを,先生方や中学生に知らせたところ,たくさん見に来てくれました。みんなは,あまりにもの卵の多さに絶句でした。

 3時間目,私の目の前で,数匹のカタツムリが産卵を始めたのです。(子供たちに見せたい。)でも,いまは,図工の時間です。そこで,VTRに撮影しておくことにしました。カメラのファインダーから,カタツムリの産卵の様子が見えます。素晴らしい瞬間を撮影することができ,とっても満足です。

 3時間目が終わり,子供たちが教室に戻ってきました。その時も,幸運なことに産卵が続いていました。子供たちも大喜びでした。とても興奮していました。

 6時間目,卵の数を調べてみることにしました。4つのグループに分かれて1個ずつ数えていきます。あまりにも卵の数が多いので,6時間目だけでは数えることができませんでした。卵の数調べは,放課後の時間になっても続き,やっと卵の数を数え終えることができました。

 A 149個  B 168個  C 255個  D 275個  合計 847個

 全くすごい数の卵でした。

 この卵は,土を入れたプラスチックのコップに入れておきました。そして乾燥しないように常に霧吹きで水をかけておくことにしました。

卵のことを調べたよ(H6)

 カタツムリが産んだ卵の大きさは,3〜4mmぐらいあります。この卵のことを子供たちが調べました。


 カタツムリは,貝の仲間です。カタツムリの卵は,ほかの貝の卵と比べるととても大きいのです。アワビの卵は,0.25mmです。カタツムリの卵は,アワビの卵の大きさの12倍もの大きさになります。それはなぜでしょう?
 アワビの子供は,まだ貝の姿をしていない形で生まれ,海水に漂っている餌を食べて育ちます。一方,カタツムリの子供は,親と同じ姿で生まれます。餌を自分で食べることができる親の姿になるまで卵の中で暮らします。その分の養分がたっぷり入っているのです。
科学のアルバム カタツムリ
 

赤ちゃん,生まれた!!!!(H6)

9月19日 朝,教室に行くと,石井君が「先生!卵の色が変わってる。白だったのが,茶色に変わってるのがあるよ。生まれそうだよ!」と私を呼びます。よく見てみると,「生まれてるよ!!」生まれていたのです!色が変わって見えたのは,白い卵の殻を脱ぎ捨てたからでした。子供たちも私も,カタツムリが卵からかえるのを見るのは初めてです。子供たちは,もちろん大喜びでした。みんなで握手をして,カタツムリの誕生を喜び合いました。

 もっと詳しく観察したいというので,理科の富永先生にお願いして,ルーペを使わせてもらいました。

 生まれたばかりの赤ちゃんカタツムリの大きさは3mm位です。赤ちゃんなので,まだ身体が透き通っていて,身体の内部が見えています。よく見ると,身体の中でピクピク動いている心臓が見えました。

 赤ちゃんカタツムリは小さいですが,姿は,もう親とすっかり同じです。小さい殻には,渦巻きもできています。特にかわいいのが目です。0.5mm位の大触覚(かわいいカタツムリの赤ちゃんにはちょっと似つかわしくない。)の先にポツンと黒い点が見えます。

 今日生まれたのは,60匹位です。産卵は,9月7日でしたので,12日で生まれたことになります。カタツムリの本によると,3週間から1か月すると卵からかえる,と書いてあります。スペインのカタツムリは早いのでしょうか。

 子供の日記 
 今日,石井君が「卵が茶色い!」と言いました。でもそれは,卵ではなく,カタツムリの赤ちゃんだったのです。私は,びっくりしました。赤ちゃんは,結構大きかったのでびっくりしました。身体は透き通っていて中が見えます。殻は,ちゃんと右巻きの渦巻きがありました。
H6 小学部2年 伊達 七瀬
 
 子供の日記 
 今日,な,何と,卵がかえりました。ルーペを富永先生から借りました。みんな大喜びです。私も大感激!!いつ生まれるかと待ち遠しかったあの卵がかえったのです。もうたまりません。すごい経験をした1日でした。  
H6 小学部2年 伊谷 友紀子
 
 伊谷さんのお母さんから 
 カタツムリの卵が60個もあったんですか。60匹もかえったら,カタツムリだらけですね。これは,本当に「生きた教育」ですね。
 

卵を食べた!!(H6)

 9月22日 昨日,プニョちゃんが産んだ卵を,赤ちゃんカタツムリの入っている入れ物に入れておきました。すると,22個の卵のうち5個がボールの空気が抜けてしまったような状態になっています。その5個の卵には,赤ちゃんカタツムリがくっ付いていて,口のあたりをもぐもぐ動かしているのです。「卵を食べるんだ!」びっくりしてしまいました。あんなにかわいいカタツムリの赤ちゃんが,同じカタツムリの卵を食べるとは。すぐに,残りの卵を他の入れ物に移しました。気付くのが遅かったら,全部食べられていたかもしれません。

 子供の日記 
9月22日 私たちが体育をしている間に,先生が卵を見ていたら赤ちゃんカタツムリが卵を食べていました。先生は大急ぎで卵を移したそうです。私は,食べられていた卵が心配になりました。かわいそうでした。
H6 小学部2年 竹元 沙恵子
 

カタツムリが冬眠(H6)

 素晴らしい思い出を子供たちに残してくれたカタツムリも,冬になると動かなくなり,殻に幕を張って冬眠します。カタツムリは,気温が12度以下になると冬眠を始めるのだそうです。


12月22日 今日,カタツムリが冬眠しました。カタツムリは,気温が12度より低いと殻に幕を張って冬眠します。みんな元気だといいです。
H6 小学部2年 佐々木 悠
 

(4)「 カタツムリといっしょ」をまとめよう

「カタツムリといっしょ」の紙芝居をつくろう(H8) 

 マドリッド日本人学校では,日頃の学習の成果を保護者の方々や交流をしているスペインの学校の子供たちに見てもらう,学習発表会があります。学習発表会では,ステージ発表と,絵や習字,工作等の展示発表があります。私の担任する1年生では,ステージ発表は1,2年生合同で日本語劇,展示発表は,これまで子供たちが一生懸命育ててきたカタツムリの紙芝居をすることになりました。

 紙芝居は,学級で一つのものを作ることにしました。

 まず,これまでカタツムリと一緒に生活してきて,心に残っていることを一人一人発表し合いました。これをもとに,紙芝居の流れと役割分担を決めました。

 @カタツムリといっしょ(題字),紹介          直宗君

 A水が大好き,ないときは幕を張る。          和秀君

 B好きな食べ物,カタツムリは贅沢           和秀君

 C赤いうんち                      享允君

 Dカタツムリは上が好き                 里沙さん

 Eはさみの上も歩ける,                 里沙さん

 Fカタツムリの足はしましま              里沙さん

 G交尾を見たよ                    直宗君

 H卵を発見,土の中に潜って産む。産むのは首から 嘉平君

 I卵の大きさ,形,数                  嘉平君

 J赤ちゃん生まれた。                 嘉平君

 K珍しいカタツムリ,まとめ              享允君

 

 紙芝居を作っている間,「あの時とってもびっくりしたよね。」などと,一つ一つの事柄を思い出しながら描いている子「先生,もう一度,カタツムリを見てきます。」と,ちょっと忘れてしまったところをもう一度再確認する子など,とても意欲的に取り組む子供たちの姿が見られました。

 紙芝居を紹介します。

@「かたつむりといっしょ」,ぼくた

ち1年生が飼っているカタツムリはい

っぱいいます。これから,カタツムリ

を飼っていて分かったことを教えてあ

げます。

 

Aカタツムリは,水が大好きです。だ

って雨が好きだからです。水をかける

と目を出します。そして喜んでいます。

 水をかけないと殻に引っ込んでしま

います。

 

 

 

 

 

Bカタツムリは贅沢です。どうしてか

というと,にんじんの柔らかいところ

だけを食べるからです。外側の堅いと

ころは食べません。だから,にんじん

は,ドーナッツのようになります。

 

 

 

 

 

C先生が,「みんな,赤いうんちだよ。

」と呼びました。見てみると本当に赤

いうんちがありました。どうして赤い

うんちをしたかというと,赤いにんじ

んを食べたからです。キャベツを食べ

ると黄緑のうんちをします。

 

 

 

 

D毎日,カタツムリの水槽を見ている

と,いつもカタツムリは上の方にいま

す。どうして上が好きなんでしょ,と

思います。狭いところにも入っていま

す。

 

 

 

 

 

Eはさみの上にカタツムリを置きまし

た。はさみの上も歩けるからすごいな

あ,不思議だなあと思いました。痛く

ないのかなあと思います。

 

 

 

 

 

 

Fガラスの上を歩いてるとき,足を裏

から見るとしましまになっています。

カタツムリの通ったあとを見ると水の

ようなベタベタしたものがあります。

面白いです。赤い口も見えます。口が

動くとき面白いです。しましまが早い

ときもあります。

目が出てないとき,しましまは動きま

せん。

 

Gぼくが,カタツムリの水槽を見てい

たら二匹カタツムリがくっ付いて離れ

ません。どうしてかというと交尾をし

ているからです。30分位たったら離

れました。初めて見たから,すごくび

っくりしました。また見たいな。

 

 

 

 

H先生がみんなを呼びました。みんな

は教室に集まりました。先生が,「カ

タツムリが土の中に潜っているよ。」

と言いました。先生が,そのカタツム

リを土からとると,卵が付いていまし

た。早く赤ちゃんが生まれるといいな。

 

 

 

 

I5月29日,直宗君と和秀君がみん

なを呼びました。カタツムリが卵を産

んだので,ぼくたちはびっくりしまし

た。先生が,首から卵が産まれると教

えてくれました。とっても楽しみにし

ていました。大きさは,ご飯粒ぐらい

です。

 

 

J6月14日,水槽を見ると,小さい

カタツムリが生まれていました。初め

ての赤ちゃんカタツムリでした。赤ち

ゃんは16匹いました。大きさはご飯

粒ぐらいです。

 

 

 

 

Kぼくたちが飼っているカタツムリは,

茶色で大きいカラコールと,白っぽく

て小さいカラコーラです。直宗君が,

珍しいカタツムリを持ってきてくれま

した。どんなカタツムリかというと,

とんがっていてソフトクリームみたい

です。大きさは,とっても小さいです。

ぼくたちは,驚きました。

 カタツムリと一緒にいて,いろんなことを勉強しました。カタツムリさん,ありがとう。

(5)スペインのカタツムリの歌を歌おう(H8)

 1年生の音楽のに「かたつむり」の歌があります。子供たちは,常にカタツムリと一緒に生活をしてきているので,この歌には特別の思い入れがあります。気持ちを込めて歌うことことができました。

 スペインにもカタツムリの歌があり,幼稚園などで歌われているようです。1年生7人のうち,2人がこの歌をよく知っていました。2人は,スペインの幼稚園に通っていて,そこで歌ったのだそうです。そこで,この2人を先生に,スペインのカタツムリの歌を歌ってみることにしました。メロディーはとても簡単で,スペインの童歌のようなものです。子供たちは,2人の先生に教えてもらい,楽しく歌うことができるようになりました。歌詞は次の通りです。

 

 Caracol-col-col              カタツムリ

 saca los cuernos al sol          お日様に向かって角を出せ

 que tu padre y tu madre          おまえのお父さんとお母さんは

 ya los saco'                もう角を出したよ

 

(6) カタツムリの敵(H6)

 9月24日,子供たちとカタツムリを探しました。カタツムリは結局見つからなかったのですが,コンクリートの隙間,にカタツムリの殻だけがありました。その殻を見てみると直径1cm位の穴が空いています。これは,マイマイカブリがカタツムリを食べたあとなのです。この昆虫に付いている名前も,カタツムリを食べている様子から付けられたものなのです。マイマイ(カタツムリのこと)を食べていると,頭に殻をかぶっているように見えるので,この名前が付いているのです。

 9月27日の朝,子供たちがカタツムリの敵,マイマイカブリを運動場で発見。そのマイマイカブリを靴で,,,。

 この話を後で,子供たちから聞きましたが,ショックでした。カタツムリの産卵の様子や,赤ちゃんカタツムリの誕生を観察することを通して,生命の神秘,生命の尊さを感じ取って欲しいと考えていたのですが,,,。確かに,子供たちがかわいがっているカタツムリにすれば敵です。でもマイマイカブリにも命があるのです。深く考えさせられた出来事でした。

3.生活科に「カタツムリを育てよう」を組み入れる

 3年間,低学年を指導してきましたが,その間,毎年,カタツムリを育ててきました。このマドリッドの地での生物教材は,やっぱりカタツムリ!と自負しています。

 カタツムリをどのように生活科の中に組み入れるのか,いろいろ試みてきましたが,3年間の実践を基に,生活科の年間指導計画を作成しました。1年生の生活科の年間指導計画の中から,カタツムリに関する部分だけを抜き出してみます。

 

 

 

 




単元名

単元目標

指導内容

備考





 





 

カタツムリを探そう

 

○かたつむりを育てることを通して,かたつむりに親しみ,様々な特徴に気付くことができるようにする。
 

・かたつむりを学校内外で探し,かたつむりが好んで生息している場所を知る。
・飼い方を調べる。

・水槽
・にんじん
・キャベツ
・昆虫図鑑
 

5〜











 














 

カタツムリの世話をしよう










 

○生き物に親しみ,生き物の様々な特徴に気付くことができるようにする。
○生き物を大切に育てることができるようにする。








 

・かたつむりの継続観察をする。
・食べる様子,食べ物と糞の色
・移動の様子
・交尾,産卵,孵化の様子






 

5月に交尾,1か月後位に産卵,さらに2〜3週間位で孵化する。
・産卵は,土の中に首を潜り込ませて行う。カタツムリが土の中に潜っていたら産卵している可能性がある。













 













 

大きくなったね










 

○動植物の様子を観察したり,育てたりすることができるようにする。









 

・孵化した赤ちゃんカタツムリを継続観察し生物の成長ぶりに気付く。
※カタツムリは,9月にも交尾,産卵,孵化をするので継続観察をする。
・カタツムリの交尾,産卵,孵化などの出来事をもとに,紙芝居を作る。
 

・観察カード
・紙芝居用画用紙









 

 

 

 

4.まとめ

 平成6年7月20日,こんなことがありました。

 13時45分頃,ベルが3回鳴りました。これは,避難の合図です。(マドリッド日本人学校では校内放送設備がないため,ベルの回数で緊急時の合図を出しています。)そこで,私は,状況を把握しに,職員室に向かいました。その間,子供たちには,教室で静かに待っているように指示しておきました。さっきのベルは,何かの間違いのようでした。

 教室に戻ってくると,子供たちは,すぐ避難できるようにランドセルを背負っているではありませんか。その中で,石井君は,カタツムリの水槽を重そうに抱えていました。カタツムリも避難させようと思ったのです。私は,石井君のその気持ちがとてもうれしく,みんなの前でいっぱいほめてあげました。みんなからも大きな拍手をもらっていました。

 このエピソードが示すように,子供たちの心の中には,生命尊重の気持ちが,確かに育っているようです。子供たちにとって,カタツムリが,なくてはならない存在になっているのです。