裁量労働制ついては、これまでも「かいな」でも度々取り上げ、その問題点を指摘してきました。（12月１日付、12月15付など）さて、私たちの職場でも今年３月から裁量勤務制が導入される見込みとなりました。裁量勤務制は、これまでの人事制度の改定のひとつの集大成とでも言うべき意味合いをもつほどの出来事と思われます。それは、昨年11月10日付の「人事制度の改革と実施スケジュール」の最大の目玉でもあります。
そこで、今回の導入に到る経緯や背景なども踏まえ、あらためてこの問題を取り上げることにします。
ここ１０年来のいわゆる日本のリストラの指導的文書である旧日経連の「新時代の『日本的経営』」（95年出版）については何度か紹介しましたが、再度、みておきます。
この文書は、「裁量労働制の活用と適用業務の拡充を」として、「これからは、働いている時間の長さに重きを置くのではなく、働いた成果によって従業員の仕事ぶりを評価し処遇するとの視点に切り替えることが必要である」「本来、ホワイトカラーの一定資格以上の仕事の仕方については・・・労働時間で管理すること自体が大きな障害になっている」と述べています。
この本の出版以後、経営側は労働法制の全面的な改悪に乗り出し、裁量労働制の規制緩和、派遣法の改悪、会社分割法などを押し進めてきました。
ＩＢＭなどは、その先陣を切りその「毒味役」をはたしてきました。裁量労働についても、大歳社長が「ほとんどの職種で裁量労働にしてもいいと思います」などと繰り返し発言してきました。
「不払い残業」「サービス残業」の合法化ねらう
会社（経営側）の狙いはなんでしょうか。
なによりもまず第１に、サービス残業の「合法化」ということです。組合の毎年の春闘アンケートなどでも、サービス残業が蔓延していることは明白です。ですから、社員が事後でも勤務記録を提出すれば遡及して残業代を支払わざるを得ません。しかし、裁量勤務制では、サービス残業という違法行為が「合法化」されるということです。
「裁量勤務制度」は「業務の遂行手段や時間配分について、社員が自己の裁量により業務を遂行します」「出社・退社時刻については、本人の裁量に委ねる」と会社は説明していますが、実態はどうでしようか。
サービス部門に所属する社員は、お客様のシステムを開発する等のプロジェクトの一員として、働いています。チームワークやお客様との打合わせ、進捗等を考えれば、個人の裁量で働く余地などありません。労働基準監督局のガイドでも、この点に着目して、プロジェクトのメンバーやプログラムの設計・作成に従事する労働者は、裁量労働の対象外だとしています。
会社は、今でも蔓延している「サービス残業」をわずかな「裁量勤務手当」を支給するだけで、「合法化」しようとしています。
年間総労働時間が短縮？
第２は、見かけ上、年間総労働時間が短縮されます。この30年以上、会社は時間短縮要求については一貫して拒否してきました。また、年間総労働時間の短縮についてもほとんどなんの対策も打ってきていません。しかし、裁量勤務制では、基本的に残業という概念がないのですから、統計上、年間総労働時間が現在よりも短縮されるわけです。
処遇や賃金の格差拡大
第３は、長時間労働や心身の健康破壊についても、労働者側の自己責任にしやすくなります。それらも労働者の「裁量」の範囲というわけです。
それらとならんで経営側の大きな狙い目は、裁量勤務制といわゆる成果主義を結びつけることにより、労働者間の処遇や賃金の格差をより一層拡大し、差別・選別を強めることではないでしょうか。裁量勤務制では、労働者の「自主性」が強調されますが、それは今以上に際限のない労働者間の競争と、労働強化をもたらしかねません。
「より会社業績に貢献した人には、より大きな報酬を」の方針に基づき、近年、賃上げや一時金でも業績（ＰＢＣ評価）により、ますます大きな格差がつけられてきています。裁量勤務制の導入はそれにますます拍車をかけるものにならないでしょうか。
裁量勤務制度の拡大解釈や希望的観測はキケン
協定書にみる問題点の検証
昨年、各事業所で「裁量勤務制度に関する協定書」が締結されています。 当然ながら、これは裁量労働を規定した労働基準法（今回は、専門業務型ですから、第38条の３）や、それについての施行規則などに拘束されなければなりません。つまり、勝手な拡大解釈や、希望的観測や情緒的な思いこみで判断してはならないということです。 裁量労働制の中心的要件は、業務遂行の手段および時間配分などの決定において、現実に裁量権を発揮できなければならないということです。
「協定書の対象者とは」
以下、今回の「協定書」についてその問題点を順次みていくことにしましょう。 専門業務型裁量労働の対象となるのは、19の業務に限定されています。今回の「協定」で対象になっているのは、主としてそのうちの「情報処理システムの分析・設計の業務」「システムコンサルタント」の業務です。
前者は、
�．法璽困稜聴�、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定
��入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェア決定等
��システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務
＊＊プログラマーは含ま れない
後者は、
�仝醜圓両霾鷭萢�システム又は業務遂行体制についてヒアリングを行い、新しい情報処理システムの導入又は現行情報処理システムの改善に関し、情報処理システムを効率的、有効に活用するための方法について問題点の把握を行うこと
�⊂霾鷭萢�システムの開発に必要な時間、費用等を考慮した上で、新しい情報処理システムの導入や現行の情報処理システムの改善に関し、システムを効率的、有効に活用するための方法を考案し、助言すること
＊＊専ら時間配分を顧客 の都合に合わせざる を得ない相談業務は 含まれない また、これらの対象業務は、プロジェクトチームで行われることが多いのですが、実際上、そのチーフの管理の下に業務遂、時間配分を行う場合は、この専門業務型裁量労働には該当しません。
「裁量制の対象者三千四百名以上の届出？」
さて、箱崎事業所を例にとりますと、労基署への届けによると、裁量制の対象者は、実に三千四百名以上とのことです。専任以上と、営業職はもともと対象外です。会社は対象としている職場組織をまだ明確にしていませんが、どうみてもこんなに膨大な社員が対象になることはありえないと思います。
「大崎東は対象外？！」
また、大崎東事業所の場合は、顧客からの相談受付が主業務であり、そのような業務形態の職場ではそもそも裁量勤務制は対象になりえないはずです。 繰り返しますが、法律の決めですから、勝手な拡大解釈は許されません。
社員一人一人の勤務実態に即した検討（業務遂行の手段および時間配分などにおいてその労働者が実際の裁量権をもっているか）が必要になります。会社も団交においてその検討の必要性について了解しています。
（注）そもそも裁量労働制は、経営側の強い要望で労基法を改悪して導入されたものであることは連載の初回に述べたとおりです。 労働基準局なども、裁量労働制 が働き過ぎにつながるがあること、裁量労働制を適用されている労働者に健康不安を感じている現状があることなどを指摘しています。そのような制度を経営側に押し切られて導入した労働基準局＝厚生労働省の責任も問われるべきでしょう。
