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やっかいな年寄り

春の虹

 子育ても終わり経済的にもゆとりができ、これから遊べる!と思ったのは次男が大学を卒業した3年前。

 旅行もさることながら都内に出かける機会も増やした。都会は相変わらず刺激に満ちていて洗練された近代都市のみなとみらいやお台場には目を見張った。

 東京はこんな風に私の知らないうちに変貌を遂げていたのか。見渡す高層ビルにはマンションも数棟混じっていてたぶん便利なシティライフが営まれるようになっているのだろう。

 しかし、すでに何度か訪れていたその街に先日主人と出かけて改めて思った。この街は近代都市で確かに魅力的な街だけど住みたい所ではないと。

 人工的な人間の体温を感じさせないこの街。昔のSFに出てきたような街が現実になったと思わせる造り。

 人混みでいえば駅の雑踏の方がひどいはずなのだけど、なぜかもっと疲れた。

 都会の喧噪も刺激もそれを楽しめるのは「若さ」があってこそ。もう、私にはそれらが「疲労」しかもたらされないという現実を実感した。 その疲労感は単に遠出したからだけとは思えなかった。

 40代で久しぶりに20代を過ごした渋谷に出かけたら「渋谷が私にそっぽを向いた」と思ったけど、あの時私はちょっと苦笑いをしてそう思ったのに今回は苦笑も出なかった。

 歳を取るということは「刺激」が苦痛になっていくことでもあるのね。こうして私は近いうち「東京」をもう一度卒業するんだわ。

 それなのにネットで「介護付き老人ホーム」を調べる時は都内を真っ先に検索していた。人生設計がこんなにブレるなんて我ながら呆れる。どうやら私はやっかいな年寄りになりそうだ。

 


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