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わが子を育てて大人になる

上杉守道

日本では二十歳になると成人といって、大人の仲間入りをする。しかし、これは形だけのことであって、実際に人が大人になるのはさらにずっと後のことであるようだ。

これは人から聞いた説だが、大人になるには、子を育てることが必要だという。つまり親になるということである。数年前に、私は親になったが、親であるということはよく考えてみると、きわめて窮屈な事態である。

なぜかと言うと、わが子は衣食住を含む生活のすべてを私と私の妻に依存している。人間としては自分と同格のはずの存在のすべてを、まるごと預かってしまったのである。独身やDINKSであれば、たとえ病気や冒険をして死んでしまったとしても、周囲の人は悲しんでくれるだろうが、彼らが生きていくのに困ってしまうということはないだろう。しかし、子があれば、その子にとっては単に悲しいというだけではすまされない。場合によっては生き方そのものが変わってしまう。それはそれでよい、などと無責任なことを言えないのが親としての心情である。ということで、自分の行動をそれなりに慎むことになる。わが身は自分だけのものではなくなってしまったのだ。

もう一つの理由は、子は親たちをよく見ていて、良いにつけ悪いにつけ、同じように行動しようとするものである。はじめは分からないが、しばらくするうちに、まともな親はこの事に気がつくらしい。そこで、子に意見をしてみるが、そんなことを聞く子には育っていないことにもいずれ気がつく。そこで、別の意味で自分を慎むことになるわけである。

とは言うものの、一歩退いて考えれば、子が親に依存したり、親の真似をしたりするのもある時期までである。子はいずれの日にか、親を批判するようになる。また、たとえ親が身近にいなくても子はそれなりに育っていくものである。そう考えると、親になったからといって、あまりかたひじをはっている必要はないともいえる。

ところで、最近になって妻から新しい説を聞いた。確かに子を育てて親になることは大人になるために必要なことなのだが、本当の親になるには、子が一人ではだめで、二人以上育てなくてはならないと言う。なぜ二人以上なのか? 妻はその理由を教えてくれない。ちなみに、妻は一人っ子である。


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