禁句「がんばって」

「がんばって!」−−教師は生徒に向かってよくこの言葉を使います。励ましのつもりです。ところが、言われた側は、場合によっては負担に感じ、うんざりしてしまうのです。精神科医の間では、ノイローゼになりかかっている人にこの「がんばって」を言い続けると、重荷になってしまい、耐えられない人は自殺してしまうとさえ言われています。

私がかつて中学3年の担任をしていた時、教師や親がいいと思って使う言葉の中で、生徒の嫌がる言葉を調べたことがありました。それが「がんばって」であることに驚きました。なぜなら、「がんばって」が嫌われているとは思いも寄りませんでしたし、私自身がよくこの言葉を使ってもいたからです。

英語の授業でのこと、単語の抜き打ちテストを行なったのですが、2、3問しかできない生徒が何人かいたので、後でできなかった理由を聞くと「先生、俺なんかがいくらがんばっても、単語なんか覚えられっこないよ」などと言うのです。私はこの生徒たちにも「がんばって!」と言っていたのですが、それがかなり負担だったのでしょう

私はこういったことを父母会でも話題にしましたが、参加者のお母さん方も家庭ではお父さんと一緒に、よくこの言葉を使っているとのことでした。しかし、家庭では「がんばって」と言われても、「お母さん、わかってるから毎日同じことばかり言わないで!」と、気軽に言い返せる関係であるならいいのです。それだけの会話で、お互いにほっとします。先生に対してはなかなかそうはいきませんが。

もっとも、小学校5、6年生ですと、まだお母さんに言い返すことができないお子さんもいると思います。そういうお子さんにとっては、毎日のように言われる「がんばって!」が負担になる場合もあります。この励ましの言葉になかなか応えられない子どももいるのです。

ご両親の励ましに対して次のような子供の声があります。「この頃、勉強はどう?」と聞かれた時、「うん、まあまあだよ」と答えたら、それ以上のことは聞いてほしくないのだそうです。また、テストが終わって「○○のところ、失敗しちゃった」と言った時、「またダメだったの?今度はがんばりなさい!」などと言われると、ムカツクのだそうです。むしろこういう場合は「難しい問題だったんだね」と言ってあげるほうが、負担を軽くします。

これらはほんの一例でしかありませんが、時と場合と機会(TPO)によって、また、言い方によって、同じ言葉でもその効果には大差が生まれます。勉強している子どもを励ますための言葉でも負担となる場合があることを、日頃から忘れないようにしたいものです。

(平成10年12月)


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