小6児童が校長に反抗

つい最近、小学6年生が校長先生に反抗したことが新聞で報じられていた。私の約40年間の教職生活の中で、かなり悪いと言われた中学生でも、校長に反抗した生徒はいなかった。それがここ2、3年、小学生が校長に反抗するようになったそうである。

ある小学校でのこと、授業中にもかかわらず、うるさくて手がつけられないクラスがあり、校長がその教室をのぞいた。すると数人の男子の罵声が飛びかい、平然と漫画を読んでいる児童もいた。校長が「今は何の時間?」と聞いても誰も答えない。「預っておくから」と、漫画を取り上げようとすると、近くにいた友達に投げ渡した。

教室は大騒ぎになった。放課後、児童達は「漫画を取り上げた校長はドロボウだ」と書いたビラを配った。そのクラスの担任は30代の女性で、周囲からは指導力のある教師と見られていたが、すでにクラスの児童達とは意志の疎通のできない状態になっていたそうである。彼らは「お前なんか死ねばいいんだ」「やめちまえ」と、口汚くののしり、担任にボールを投げつけ、職員室や校長室のドアを蹴り歩いたというのである。

今から10年ほど前、私はある中学の2年のクラスで、授業の邪魔をする生徒達を厳しく叱ったことがある。すると、男子からは「うるせんだよ!勝手にしとけないってんなら、お前が出ていけよ!」とののしられ、教室をうろついて周りに迷惑をかけていた女子からは「うるさいなあ。ムカツクよな」と言われた。私は即座にその女生徒を廊下に呼び出して「ムカツクのは先生の方だ。謝りなさい」と叱った。

その日の放課後、冷静になって生徒達と話し合ったところ、「小学校で悪いことをしても、親や先生に叱られたことはなかった」と言うのだ。その時叱った生徒が成人式に集って「先生、あの時は叱ってくれて本当は嬉しかったんですよ」と、男子は照れ笑いをしながら、女子は涙ぐみながら話してくれた。

もしこれが現在の出来事だったら、保護者が「うちの子は先生の叱り方が悪いので不登校になりました。どうしてくれるんですか」などと、校長に直訴するだろう。校長も「不登校」と言われると「子どもの人権を侵害した」と即断して、私と一緒に保護者に謝罪するだろう。

一般の方には「まさか」と思われることが今の学校の体制なのである。

最近では、教師自身が正邪善悪をどう判断し、指導していいのかわからず狼狽している。注意の仕方によっては生徒や保護者に誤解され、すぐに問題とされてしまうからである。

教師は生徒が授業中に迷惑をかけたり、秩序を乱すような言動をした場合、その日のうちに注意し、それでも直らなければ保護者と協力して、厳しく指導してやるべきである。人権を大事にするのは放任することではない。今は何かにつけて「人権侵害」などと言って厳しい指導を回避しがちで、悪の芽を増長させているのである。

(平成10年11月)


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