子どもが間違えた時に

お父さんやお母さんが家庭で勉強を見てあげる場合、子どもが間違えた時でも、温かく励ましてやりたいものです。

つい最近のことですが、Sさんという登山家の方が、お子さんの勉強相手として大変温かい指導ぶりをエッセイ風に書いていました。
 小学3年生の娘さんが『遊』の漢字を練習していた時、真ん中の『方』を『父』と間違えました。いつもお父さんと遊んでいるので無意識に『父』にしたのだと思い、嬉しかったそうです。

そこでSさんは、「『父』ではなくて、『母』でもいいんだよ」と言うと、そばで聞いていた小学4年生の息子さんは、「僕なら『友』にするよ」と言いました。毎日友達と仲良く遊んでいる息子さんなので、それでもいいと思ったそうです。
 お父さんがお子さん達をとても可愛がっている様子が目に浮かびます

娘さんが小1の時『子ども』を覚え、小2で『小石』を『子石』と書いたり、息子さんは『億』という漢字の使用例として、億万長者を『億万兆者』と書きました。Sさんは、誤りを正してやりながらも、こうした語感による間違いをほめてやったそうです。

こういったことは、中学生でもよくあります。私も、生徒の漢字のおもしろい間違いを職員の間で話しあったことがありました。

ある感想文で、『希望』を『喜望』と書いた生徒がいました。T教師は、国語の授業ではなかったので「正しくは『希望』だけど、これは面白い間違いだね」と言ってやりました。すると他の生徒が、「『希望』の『希』って何ですか」と質問してきたので、T教師は「まれにある望みよりも、喜びの望みのほうがいいよね」と答え、生徒は納得したそうです。

また、ある教師は『音楽』を『音学』と書いた間違いについて、どう思うかを生徒に聞いたところ、ある生徒が「テスト前の音楽は楽しくないよ。楽譜の説明ばかりで、音を学ぶことの方が多いよ」「そうだよ、『音学』っていう感じがする」「それよりも『音が苦』だよ」などといった意見が出たそうです。

教師も親御さんも、このようなちょっとした配慮をすることで、漢字の間違いを和やかな雰囲気で話題にできるわけです。

算数でも同様なことが言えると思います。問題を解くのにいろいろな考え方が浮かび、子どもはどれが正しいのか分からなくなることが多いのです。結局は、答えをはっきりとさせなければいけないのですが、間違った時のアドバイスや対応が、その後のやる気に影響します。

間違えた時は、次のようなフォローがいいとよく言われます。
・「それは誰でも間違いやすいんだよ」
・「間違いは、繰り返さなければいいんだよ」
・「計算をかん違いしただけだよ」
・「かん違いは、簡単に直せるんだよ」
・「その問題は、ちょっとお父さんにも難しいな」
・「地名や人名は例外が多いから、大人でも間違いやすいんだよ」
・「文章題はいろいろなやり方があるから、式にするまでが間違いやすいんだよ」
などというように、子どもの負担を軽くしてやることです。

勉強だけでなく他のいろいろな習いごとでも、間違えた時の周囲のアドバイスが、かなり影響すると言われます。

ところで、故意による乱筆や乱文は、周囲がきちんと指導してやるべきです。最近は高校生でも、漢字も仮名も乱れが多く、例えば『ますます』を、数学の2乗のように『ます2』と書いたり、勝手に造語して『チョベリバ』(超ベリー・バッド)などと書いたりするのです。仲間への手紙ならばともかく、まじめに書くべき時には用いてはならないことを、教師がきちんと指導すべきですね。

(平成10年7月)


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