自分に勝つ心を
ー勉強から克己心を育てるー

一般には、勉強すれば、知識が身についたり、頭が良くなったりすると考えられています。それはそうですが、でもそれだけではないのです。勉強は克己心も育ててくれるのです。

最近、中高生による刃物での殺傷事件が多発しました。事件を起こすのは、我慢強さが欠けていたり、すぐに興奮したりすることが原因と考えられます。

日ごろ努力して勉強している生徒の多くは、忍耐力が身についているので、自分を抑制できます。しかし、勉強を途中で投げ出してしまうような生徒は、中学生による事件がマスコミで報道されたりすると、すぐに影響されてしまうのです。
  神戸の殺傷事件の後にも、日頃悪いなと思っていた生徒の態度が急に大きくなりました。普段素直な生徒でも、まさかと思うわがままな言動をするようなことさえありました。
  次の例は、神戸の事件が起きた直後に、授業でそのことについて話した時の生徒の反応です。

中学1年のあるクラスで授業を始める前でした。
「今の生徒はもう少し我慢強くならないといけないんだよ。勉強で難しい問題を解く努力が我慢強さを身につけるのに役立つんだよ。」
と話してやりました。すると、不満そうな顔つきに変わった生徒が何人もいました。授業が進むうちにだんだん私語が多くなり、女生徒がとくにうるさく感じましたので、
「今日は女子が少しうるさいねぇ」
などと言いました。ずっと不愉快な気分でいた私は
「次の授業はもっとしっかりしてほしいなあ、いいかい」
という厳しい言葉を特に女生徒に向けるようにして授業を終えたのです。すると、普段書かせている授業に対する感想文に、
「今日の授業はムカついた」
と、投げやりな文を書いて提出した女生徒がいました。男子は、
「いい話を聞いたので気をつけよう」
という素直な感想が多かったのですが、女子は
「授業に関係ない話は、やめてほしい!」とか、
「女子ばかりうるさい、という言い方は差別だ」
とも書いてありました。普段余り勉強熱心とはいえない生徒達でした。

翌日、それら5、6人の生徒達と話し合ったのです。
私「先生の言い方も悪いかもしれないけど、みんなの態度も今までと違ってかなり悪かったんだよ」
生徒「せんせーい、あんなの気にしないで。ギャグだよ」
私「ギャグにしては投げやりな感想が書かれていたよ。書かれた先生のほうはギャグには取れないから」
生徒「だって、昨日は朝、家を出るとき母と喧嘩したから、むしゃくしゃしてて」
生徒「その前の授業でほかの先生にお説教されたからさ」
ということでした。そして、
「とにかく今度からはまじめにやるんだよ」
と私が言うと、にこっと笑いました。なかには、
「ありがとう。今度は気をつけまーすよー」
と気分良く返事した生徒もいました。

勉強の苦手な生徒は、我慢することができず、少しでも長い説教をされると最後まで聞いていられないのです。スグに「うざい!」(しつこい、けむたい)などと、相手のことも考えずに、勝手なことを言います。
もちろん、こういう生徒ばかりではありません。ひどい叱り方をしても、
「よく考えたら叱られているうちに目が覚めました。ありがとうございました」
という感想を書く生徒もいます。

日頃よく勉強していると、短絡的に不満を出しません。「勉強」が強く勉めるという意味の漢字を書くように、知らぬ間に強くなろうとしているわけです。それで、辛いことや嫌なことにぶつかったときも我慢強い態度が取れるわけです。

克己心は日頃の勉強から身につくものですし、またそうならなければもったいないと思います。周囲の教師や親達が、学力の向上だけでなく、克己心の育成ということも念頭において子供を励ましてやればいいでしょう。

(平成10年4月)


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