音楽の影響

学校生活ではいろいろなことが生徒に影響する。教師が感じないことを、敏感な生徒は感じ取る。毎日学校では昼休みの長い時間、音楽をかけている。これが生徒に与える影響はかなり大きい。しかし、実際にはあまり重要視されずに流されている。教師達は昼休みの音楽ぐらい、生徒が好きな曲を流してやればいいと思っているようである。

が定年まで勤務した10校ほどの中学校の中で、昼休みにクラシックをかけていた学校は1校だけであった。最後に勤務した中学校も、S校長が来る前は、ずっとロックなどの激しい音楽ばかりであった。S校長は赴任後すぐに校内放送の音楽の是非について相談された。週に1、2回でもクラシックをかけられないものだろうか、とのことで、すぐに実施したが、とくに反対の声はなかった。さらに授業中も廊下に弱音でバイオリンの音楽などを流すことにした。職員の中には、デパートや病院でもないのに、と反対された方もいたようだが、だんだん慣れてくれた。また、授業中に廊下に流れる音楽は、教室でもかすかに聞こえるので、授業の邪魔になるという教師の声もあったが、最弱音にして続けた。

やがてS校長は玄関前のフロアーの隅に、遊んでいるピアノを置いて、誰が弾いてもいいようにした。PTAのコーラスもフロアーで練習した。春には「おぼろ月夜」、秋には「星の世界」「もみじ」「里の秋」など、主に懐かしい昔の小学校唱歌を練習して、近所の会館で発表した。これらの練習に生徒が数人入って歌ったりもした。校内合唱コンクールも前から盛んで、高度な合唱曲を玄関前のフロアーで練習する光景は、昔の女学校のようで和やかだった。職員室がすぐそばにあったこともあり、ピアノをいたずらしたりすることはなかった。

私は授業でも同じ曲を扱った。授業後の感想文では、昔の曲は歌詞がきれいだし、メロディーも歌いやすいとあった。しかし、何となく淋しく、元気がないという感想文もあった。

私は定年後も非常勤講師として勤続して5年目になるが、その間に勤務したすべての中学校では、やはり昼休みにロックなどが流れていた。そこで、校長や放送担当の教師に 「できたら、週に1回でもクラシックを流していただくと、生徒へのいい影響もあるので」とお願いしたが、なかなか聞いてもらえなかった。理由は生徒達の猛反発に合うとか、生徒達の自主的な活動を大事にしてやりたい、とのことだった。

私は自分の担当している中学1年だけでもと、「おぼろ月夜」「ふるさと」などを授業で扱った。唱歌は和音をもとにして作曲されているので落ち着きがあり、メロディーも歌いやすく、教えやすい。ただ、歌詞があまりにも古く理解しにくかったので、詳しく説明してやった。それらの曲を家に帰って母親と一緒に歌う生徒もいて喜ばれた。

今年の秋も文化祭が終わった。この文化祭には、秋になると早くから準備に取りかかる。真剣に毎日やるので、その内容が生活面にかなり影響する。音楽は文化祭の中心的な存在だが、最近はどこの学校も同好会での今流のバンドが盛んなようだ。だが、音が大き過ぎるので練習中に近所の家から苦情の電話がかかってきたりする。学校側では、年に1回の文化祭なので我慢してほしいなどとお願いすることが多い。

文化祭を終えた後、いつものことだが授業がやりにくくなる。文化的に高まるのではなく、気軽なお祭りの後という感じが生徒には残っている。音楽が知らぬ間に生徒達に与える影響は大きい。

(平成10年1月)


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