性格の優しさを育てる
ー温かい言葉ー

神戸の小6殺害事件についての記事などを読んでいると、どこの中学校でもこのような事件が発生するかもしれないと不安になる。しかし、多くの教師は長い間には優しい生徒にも出会ってきているのだ。だが、そういったいい話題はなぜか紹介されない。

次の例は、現在勤務している中学の私の体験である。ちなみにその中学の学力は決して高い方ではない。場所も裕福な住宅街ではない。ただ、昔からの町であり、高齢者が多く、隣人同士の交流が強かったり、温かい雰囲気があるように思う。私が戦争体験の話をするためにある家に取材に行ったときも、初対面の方が長時間親切に応対してくれた。こういう温かい人々が子供達にもいい影響を与えていると思う。

つい最近のこと、法事があって欠勤した。翌日の授業で、ある1年生の男子が授業前に「先生、昨日は具合が悪かったの?」と言ってきた。私は、急用ができて休んだことを話した。するとその生徒は「ああ、よかった。暑くなったので、具合が悪くなったかと思った」と言った。それだけのことだったが、優しい生徒だなあと感心した。

朝早く出会うと、「あっ、K先生だ。おはようございます」と、その場に立ち止まって名前を言う男子もいる。遠くから「せんせーい、おはよう、お元気」という女子も多い。挨拶の元気な生徒は、性格が優しい。用務員の小父さんや小母さんも「みんなよく挨拶をしてくれますよ、うちの生徒は」と言う。どこの学校でも挨拶の指導をしているはずであるが、お互いに気分が良くなるから、「元気に挨拶しよう」と柔らかく言うだけで、みんなの気分が違ってくる。

授業中となると、やはりおしゃべりの多いクラスがある。注意すると、授業後の反省文には「今日はおしゃべりをして、注意された。次は気を付けようと思う」と書く生徒がよくいる。こんな生徒が1人でもいると、ほかのクラスで名前を言わずにほめてやることにしている。

もっとも、反省したからといって、すぐに態度を改められるわけではない。それでも、反省を重ねているうちにだんだんに良くなっていく。すると、同じ注意をされても反感を持つことはない。

「ほめること」と「叱ること」とは、どちらも一方に偏ると良くない。どちらかといえば、ほめる方を少し多くした方がよい。叱ったとき、「今日は悪かったけど、次は気を付けよう」と言ってやると、素直に聞くことが多い。

テスト監督に行ったときのこと、ある女子が消しゴムを落としてしまった。友達の椅子の真下に落ちたので、取りにくかったせいもあって、拾ってやったら、小声で「申し訳ございません」と言った。「ありがとうございます」とは誰でも言えるが、そんなに丁寧に、しかもテスト中なので、ほかの生徒に迷惑をかけないようにお礼を言ったことに感心した。これも他のクラスでほめてやった。ある生徒の感想文に「いい話を聞くことができた」とあった。

2、3日前のこと、私が職員室を出た時に、服装を整えようとしていた女子に出会った。職員室に入る前に、失礼のないようにということだろう。その生徒は荷物をどかして「すみません、こんなところで」と言った。

ちょっとした温かい言葉の生徒達について、家庭環境などを担任に聞いてみると、次のような傾向がある。

*おじいさんやおばあさんのいる家庭で、一家が和やかである。
*母子家庭の場合、お互いに協力し合い信頼し合っている。
*庭に木があったり、狭い庭でも草花があったりして、それらを大事にしている。
*ペットを飼っている。
*芸術面での趣味をもっている。

優しい性格は、子供のころは誰もがもっているはずである。それを家庭や地域や学校での生活を通して育てていく。小学校の高学年から、中学3年生ぐらいまでに身につけさせてやりたいと思う。

(平成9年9月)


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