うわさ荻野誠人 子供を亡くした若い母親がいた。 その人は初七日が終わると、すぐにテニスに出かけた。はつらつとして、とても不幸のあったばかりの人には見えなかった。 その後ろ姿を見送りながら、近所の人たちはこううわさした。 「一体どういう神経してんのかしら。かわいいわが子が死んだばかりだっていうのに。母親失格じゃない?」 その人たちはあちこちで似たようなことを言った。そのうわさは広まっていった。 |
別の所にやはり子供を亡くした若い母親がいた。 その人は三回忌が終わっても、悲しみから立ち直れず、ほとんど家に閉じこもったままだった。 事情通とかいう近所の人たちはこううわさした。 「何いつまでもめそめそしてんのかしら。甘ったれてるわねえ。不幸なのは自分一人じゃないのよ」 その人たちはあちこちで似たようなことを言った。そのうわさも広まっていった。 (1996・10・10) |