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狭く小さな住まい

春の虹

  休日に家にいるとセールス関係の電話が必ず一回はかかってくる。ゴールデンウイークだろうとお構いなしだ。友人や知人はたいてい携帯にかけてくるから電話に出る前から警戒モードになる。

 案の定「公園墓地のご案内」の電話だった。こういう電話は普通、お彼岸の時と相場は決まっていたが、どうやら近くに霊園ができたらしい。最後まで聞く気のない私はさえぎるように即「あ、もう購入しております」

 事実もう10年以上も前に近くにちっぽけなお墓を買った。マイホームよりも駅に近いところだった。息子たちが将来どこに住むかわからないのだからお墓はできるだけ駅から近いにこしたことはない。そう思って無理をした。同時に母を安心させたかったからだ。

 「死んでもこんな小さな狭い住まいか」
  母は皮肉たっぷりに厭味を言ったが喜んでくれていることはわかった。

 お墓はいわゆる西洋式なデザインを選んだ。平らな形でそこに好きな文字を刻むタイプだ。サンプルには「和」だとか「やすらぎ」「憩」などの文字がありそれをそのまま選んだお墓も多かった。そのため同じ言葉のお墓が並んだ列もできていた。

 私も主人も他人と同じような言葉や文字を選びたくなくていろいろ考えた。そして私の名前から一文字とって「虹」になった。どちらかと言うと主人の方が「あ、それいいね」と気に入ってくれたのだ。

 父がつけてくれた私の名前は今ほど名前が何でもありの時代ではなかっただけに「読めない」という理由で嫌な思いをしたこともあった。

 理由はもちろんそれだけではなかったけど人並みの親不孝もした。その父は遠方のお墓で眠っていて家督を継いでいる弟が守ってくれている。

 母はこちらで私たちと一緒のお墓に入ることをを望んだため私は父に二重の親不孝をしている気分になっていた。だがこれで少しは父に許しを請えるだろうか。

 結果、私は毎年まだ誰も入っていないお墓のために「永代供養料」なるものを払い続けている。そんな大した金額ではないものの、10年以上も経つとやはりまとまった金額にはなっている。少々早まったかなあという気がしないでもない。

 だからと言ってもちろん母に早く入って、というわけではないけど。

 


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